「ちょっと絋士くん!さっき、王子の事聞きに来た人いたよ」
「凪の事を?」
電話を終えて店に戻ってくると店番をしていたパートのおばちゃんが慌てたように絋士に報告に来た。
「なんでここに…?」
「なんかウチのお菓子を前にいただいてって…。この辺でピアニストの高比良さんのお宅知りませんか?って」
お菓子…?
「で?」
「知りませんって言っておいたけど」
でも近所の人はピアニストの高比良 凪は知らなくてもピアノ教室の看板を出しているから誰かに聞けば分かるはず。
「…どんな人でした?」
「30歳は越してるかなぁ…男の人で…」
もしや…!凪がお菓子を持っていったのは絋士の知る限りでは立花 創英にだ。
「ちょっと目線のキツい髪は短めで神経質そうな感じ…?」
「あ、そうそう。そういう感じ」
「どれ位前です!?」
「絋士くんがお昼に入ってちょっとしてからかな」
絋士は慌てて携帯を取り出した。まだ生徒のレッスン時間にはなっていないはず。
電話をかけたがコール音はするけど凪が出ない。
どうしようか…。ちょっと行くか…?
仕事を放って、と一瞬過ぎったがどう考えても凪の方が大事だ。
あの男の前で凪は震えていたんだ。
パティシエのユニフォームを脱ぎ店を出だそうとしたら電話が鳴った。
「凪っ!」
『…三塚…?どうかした…?』
「よかった!何もない?」
『何が?』
「今さっき立花 創英がウチの店に来たらしいんです。凪の事を聞いていたらしい。来てないなら玄関鍵締めて生徒来るギリギリの時間まで閉めて出ないように」
『え!?あ…分かった』
どうやら来ていなかったらしいのにほっとした。
『閉めたよ。あとは出ないようにする』
「…よかった」
『ありがとう…でもなんで三塚の店に?』
「凪、この間ウチのお菓子持っていったでしょう?あれにウチの住所とか書いてあるんです…。それ見たんじゃ…?」
『……なんで……あ!ごめん!仕事中だろ?…インターホン鳴っても出ないようにする』
「そうしてください。じゃ」
『うん。仕事頑張って』
「………ああ…」
安心して顔が緩んでいたらパートさんと妹の真衣も厨房のほうから顔を出して絋士をじっと見ていたのに気付きはっとした。
電話を切ると皆から馬鹿にされたような目を向けられる。
「………何?」
「い~え~…ただ!王子独り占めずるいよね」
独り占めって……確かにしてるけど。
「全然来てくれなくなったし!」
「綺麗な人が照れながら買っていくのが可愛かったのに!」
「きっと優雅にお食べになるんだよね~、きっと、ね!」
嬉しそうに顔赤くしながら食べて幸せそうに満面の笑み浮べながら食べる…なんて教えてやるはずはない。
「さ、仕事」
「…仕事放って行こうとしてたくせにぃ」
じとりと真衣に睨まれた。
「問題ないならいかない」
とりあえず大丈夫だったらしいのに安心した。あと生徒が来てしまえば万が一来たとしても時間を取るはずもないだろうし。
帰りもレッスンが終わるよりも絋士が先に帰るし、とほっと息を吐き出した。
それよりも問題は立花 創英のほうだ。
一体何をしに来たのか。凪に名刺を渡して…凪は勿論嫌がっていた位なので連絡は入れていないはずだが…。業を煮やして自分から凪を探しに来たのか?
惹かれるとかぬけぬけと言っていたらしいが…凪は絋士のものだ。
気をつけないと…。とはいっても仕事もあるし凪にずっと張っているわけにはいかないので仕方がない。
「あ、真衣、親父、今度の日曜休む。さっきの件の打ち合わせ…というか顔合せか…?…でちょっと行ってくる」
パートさんから凪が来ない事に文句を言われるのは流して絋士は厨房に戻り、脱いだユニフォームに袖を通しながら報告した。
「もう!?早い!」
「ああ。善は急げ、だ。チャンスが目の前に来てるなら自分から捕まえないとな」
「……ホントお兄ちゃんのそういうところは尊敬する。お菓子作るのも、話が来るのも分かるけど。でも…王子…騙してるんじゃないの?」
……なんで誰もかれも騙してるって言うのだろうか。
「…こんなに真面目なのに」
ありえないといわんばかりの不審な視線を向けられる。
「でも確かに高校の頃とかに比べたらまともになったよね…日替わり状態だったもんな…」
……なんで知っている?家になんか連れてきてないのに。
「ご近所情報」
………絋士が顔を顰めていると真衣から明確な答えが返ってきた。
凪があまり外出ない人でよかったかも…。あることないこと自分の今までのやましい行動を全部聞かされそうだ…。
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