「凪?どうしました?」
「……え?あ。ああ…」
三塚に話した方いいのだろうか…?でも不確かな事だし…。いや、でも心配してくれてたんだから…。
ダイニングテーブルで三塚と向かい合ってご飯を進めていたのだが凪は口を開いた。
「今日…立花 創英が来た」
「凪!?本当に!?」
「…ああ…。でも生徒来る時間だったし…玄関先で…あと、すぐ帰った…」
「…なんの用事だったんです…?」
「それが……」
凪は言いよどんでしまう。
「凪?」
三塚がテーブルの向かい側から手を伸ばして凪の頬を撫でた。
「なんでも言って?」
「………あの…父親を…知っているかって…」
「…どういう事?」
「僕は…自分の父親を知らないんだ…。教えてもらってなかったし…いない、って言われてたから…」
「…そうなんですか…?」
凪は小さく頷いた。
「一度…小さい頃に…幼稚園か小学校低学年かの時位に…僕のお父さんは?って聞いた事があったんだけど…いない、って一言だけで…それっきり聞いた事もなかったから…」
「………それを何故立花 創英が…?」
「分からない…」
凪は頭を横に振った。
「僕は…母の事もよく知らないんだ。実家が九州のほうでピアニストになりたいとこっちに勘当みたいな形で出てきたらしいのは聞いた。親戚も誰もいないって…」
「…そうなんですか?」
凪は頷く。こんな事も誰にも言った事などなかったけど…。
「…本当にお母さんと二人だけだったんだ?」
「そう」
だから…凪が倒れたって何したってもう誰も気にもしないんだけど…。
「…立花 創英が本当に凪のお父さんを知って…」
「いや!僕には父がいない。…それでいいんだ。今更…そんなのを求めてもいない」
「……凪の家族…俺だけでいい?」
「…………え?」
目を瞠って三塚の顔を凝視した。
「結婚できればいいんですけどねぇ…出来ないけど…。でもパートナーって言ったでしょ?」
「…言った」
「俺はそのつもりなんですけど?ダメ?」
「………ダメじゃ、ない……。でも!僕なんかで…」
「なんかじゃないでしょ。それ言ったら俺の方が…音楽に携わっているわけでもないし…。凪を支えたいと思ってもステージに向かい、凪はやっぱり一人で…全然凪の役になんか立ってない」
「そんな事ない!…その…傍に…いてくれて…すごく安心するんだ…。一人じゃない…って思えて…演奏の時の事だけじゃない。普段の時も…レッスンしてると三塚が帰ってくるのが嬉しくて…こうして向かい合わせでご飯食べるのも…なんでもない事が嬉しいと思ってる…」
「凪…」
三塚が立ち上がって凪の顔を引き寄せると軽くキスして来る。
「俺もそうですよ?こういう時間がいつも穏やかで好きです。ステージはね…俺まで緊張する…。コンサートの重圧は分かりませんが一応ステージに一人で向かうあの緊張感は知っているつもりです。コンクールや発表会なんかとは比べ物にならないとは思いますけど。誰も助けてもくれないたった一人のステージで信じるのは今までの練習をしてきた自分だけですからね」
「…そう。でも今、僕は振り返ると三塚がいてくれるから…」
こんな事言うのも照れくさいけれど本当にそう思っている。いつでもどこでも一人だと思っていた。頑なにそう思っていたのが劇的に変わった。
「三塚が大事だと思う。…好きで…傍にいて欲しいに傍にいたいと思う…。父親の事とか関係ない事でも聞いてくれて…心配してくれて…三塚にはもらってばっかり…僕も三塚にいろいろ与える存在になりたい、と思う。あの…思っているだけで…全然なんだけど…」
「色々貰ってますよ?俺も人が大事だと思ったのは家族以外じゃ初めてです。全部をほしいと思ったのもね。とりあえず凪…?ご飯終わったら凪を貰ってもいい?そんな事言われたら…すみませんけど我慢利かない身体なもんで。凪が欲しくて仕方ない」
「……」
三塚の声のトーンが変わる。色がついて艶やかに…。それでなくともいい声が耳を擽るだけでも心地いいのにもう三塚の熱を覚えたからだはそんな事を言われただけでも火照ってくる。
欲しいと、我慢できないと三塚に言われれば拒絶なんかできるはずもなく凪は顔を赤らめながら小さく頷いた。
「じゃ、早く食べて。凪はコンサートも控えているんだからしっかり食べてもらわないと!それでなくとも俺が凪の体力吸い取ってるようなものだし…ああ、でも運動不足だろう凪にはいいのかな…?」
「三塚っ」
恥かしい事も平然と言ってのける三塚に顔を赤くしたまま抗議したって説得力ないいてまるでない。…そんなの自分でも分かってる事だ。
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