そのまま会場の下見に行ってピアノの確認。前日は通しでリハして、コンサート当日は朝から調律にその後軽くリハ。そして本番という流れになる。
「高比良さん、CDですが今回のコンサートを録音してCDに、でいいですか?それとも撮り直ししますか?」
「僕はちょっとそういう事には疎くて分かりかねるのですが…」
「じゃあ…コンサートの録音にしましょうか。それまでに事を進めておいて、コンサート後になるべく早い段階でCD出してツアー組みましょう。最初は主要都市になると思いますけどね」
「いや、あの……本気ですか?」
「本気ですよ。びしばし宣伝しますね」
にっこり微笑まれるけど、やり手なのだろうとは思う。
「…よろしくお願い致します」
凪は頭を下げるしかなかった。
そのままホールで生方さんと別れ凪は帰途につくことにする。
携帯を出して三塚に今終わってあと電車に乗って帰るとメールすると駅まで迎えに行きますと返事が返ってきた。
…三塚はもう帰っているのか…?今日は仕事じゃなかったのだろうか…?やっぱり見間違い…?いや、三塚を見間違えるはずはないはずだ。
どうして教えてもらえないのだろうか…?三塚から口を開いてくれるまで待てばいいのか…?それとも凪には言えない事だから言わなかったのか…?
電車に揺られながら考えるのは三塚の事だけになってしまう。
コンサートを楽しみにしていると立花にも言われて、桐生 明羅と二階堂 怜も来るらしいのにどうしても気になるのは三塚の事だ。
どうしようか…。
それに生方さんが言っていたのが本当で、もしあちこちでコンサートをするようになれれば生徒を放って行く事になってしまう。
今すぐスケジュールが埋まるという事はないだろうけれど、もし決まれば年単位でスケジュールが決まる…。まさかそんな事にはならないか、と苦笑する。
自信過剰になっているだろうか…?先生にも褒められ、一流の人にも褒められ…でも自惚れちゃだめだ。
それよりも今は三塚の事だ…。
女の人と一緒だった…。やっぱり女性のほうがいい…?
昨日はあんなに求めてくれたのに…?
いや、決まってないだろう…。でもそれならどうして今日もいつもと同じように仕事のふりをして…?
朝に凪が東京に行くと言った時に自分も今日は行くんだ、と言ったってよかったはず。
そういえば何時に出るの、どれ位に帰ってくるの、と時間を気にしていた。
凪の時間に合わないようにした…?いや、まさか…違うよな…?
どうしても悪いほうに考えてしまいたくなる。
…綺麗できりっとした仕事の出来る感じの女性だった。店の中から視線で追ったのに三塚は気付きもしないで歩いていった。きっとあんな所に凪がいてまさか見ているなんて思いもしなかったのだろう。
…楽しそうに表情を緩めていた。顔も心なしか紅潮していたような…。
段々と電車から降りる人が多くなり、座席が開いたので凪は座った。
…疲れた…。
コンサートに関しては言う事ない位全部がスムーズだったと思う。自分のピアノもイベント企画の生方さんとも、他の事まできまったり、チケットなんかもよかったと思う。
それなのに…一番肝心の三塚が…。
どうする…?もしやっぱり女性のほうがいい、とか言われたら…?
そんな事もし言われたら凪にはどうしようもない…。そう、どうする、といっても凪が諦めるしかないんだ。でもそんなの…もう無理なのに…。
メールでは駅まで迎えに来てくれるって…返ってきたけど…本当に…?
もう三塚は帰ってた?やっぱり何かの用事だけ?何か急に用事が出来ただけ…?きっとそうだ…。だから朝は言わなかったんだ。
帰ったら、顔を合わせたらちゃんと言ってくれる?
今日用事出来て俺も行ってたんです、って行ってくれれば見かけたよ、と凪も言える。そうしたら何の用事だった?とも聞いてもいいだろう?
じゃなかったら凪からは言えそうにない。もし見かけたといって三塚が気まずそうにしたら?そして女性の方がいいなんて言われたりしたら…。
凪は座席に座り俯きながら小さく首を横に振った。
違う。きっと気のせいだ…。
見間違いかもしれないし。…絶対に自分は見間違える事はないと思いつつ自分にいいように思うようにするしかなかった。
電車が着くのが怖い。三塚の態度がどこも変じゃありませんように…。小さく心の中で祈った。
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