「どれがいい?何個でもいいですよ」
「三塚は食べない…?」
「いりません」
こそりと三塚に耳打ちしながら三塚の店のウィンドウを覗く。
久しぶりに自分で選んで買うケーキにちょっとワクワクしてしまっているのは内緒なんだけど、三塚が笑いを堪えているのでバレているのだろう。
綺麗にデコレイトされてキラキラしているケーキに悩んでしまう。
「あの…三塚」
選んだやつを耳打ちしながら小さく指差すと三塚が頷いてそれを頼んでくれる。支払いも三塚がするんだけど、なんか変だ。
自分で払うと言ったんだけど、お祝いですから財布は出さないこと!と車の中でぎっちりと約束させられた。
「ありがとうございます~!またいらしてくださいね~!」
店員さんににっこり笑顔を向けられるのが恥かしくて三塚の影に隠れるようにしてしまう。とりあえず他にお客さんがいなかったのはよかった。
ふといつも三塚がいる厨房に三塚のお父さんともう一人、女の人がいた。
そういえば妹さんが…って言ってたけど。
じっと凪が中を見ていると妹さんなのか、が凪の方をぱっとみて目があった。
そういえば!ずっと三塚は凪の家に帰ってきてるんだ。挨拶した方がいいのだろうか?とたらたらと冷や汗を流した。
その妹さんがちょっと顔を出した。
「お兄ちゃん。本当に騙してないんでしょうね!」
「人聞きの悪い。本気だと言ってるだろう、うるさい。…凪、行きますよ」
騙してない……?何を…?本気…?
ぐい、と三塚に腕を引っ張られて凪は三塚の妹さんに小さく頭を下げ店を出た。車に乗ればもう凪の家はすぐだ。
「あ、の…?騙してない…って何の事だ…?」
「俺が凪を誑かしてるんじゃないか、って事です」
「たぶ……?って…ちょっと…あの…も、もしかして…知って…?て、店員さん…も…?」
「知ってますよ。だって俺家帰ってないでしょ」
かっと顔から首まで真っ赤になってしまう。
妹さんの言葉に店員さん達も頷いてたのは…やっぱそういう…事?
「だからこの間立花来た時も教えてくれた位ですから」
堂々と三塚は照れることもなく言ってのける。
ちょっと待て!頭が混乱する。
じゃあ何か…あそこにいる人達は三塚と自分の事はそういう意味で…付き合っているという意味で一緒にいるのを知っている…のか?
これ以上ない位に凪の顔が真っ赤になって凪は小さくなり身体を竦めた。
「もう……お店…行けない…」
「どうして?別に構わないでしょう?」
「恥かしいじゃないかっ」
何故三塚はそんなに平然としていられるのか。
……でも密かに凪の中に優越感が湧いている。今日女性といた所は見たけれど、家族や三塚の身辺では自分がちゃんと三塚のパートナーと知られているって事だ。
凪の家にすぐ着いて車を降り、玄関を開けて中に入った途端に三塚に抱きついた。
すん、と匂いを確かめれば三塚からはいつもと変わらぬ甘い香りがする。
「凪?どうしたの?……なんか今日少し変ですよ?」
「……変じゃない」
それは三塚が知らない女性といたからだ。…凪に内緒で。
でもこうして凪の妹にも凪の存在を知られているという事に恥かしいながらも安堵してしまっているんだ。だって普通は男だってだけでそんな対象に入るはずないのに…三塚の言う本気だ、が本当に思えてしまうから…。
「三塚……」
そっと三塚の頬を手で撫でると三塚がキスしてきた。
「んっ…」
ちゃんと言ってくれる?待ってればいい?
不安が燻ってしまう。三塚の首に腕を回して自分から舌を差し出し三塚を貪る。誰にも渡したくない。たった一人の自分だけの人だ。身内も誰もいない自分を心配してくれる人も三塚だけなんだ…。
「三塚……」
はぁ、っと唇を離して息を漏らすとぎゅっと三塚の腕が凪の身体を抱きしめる。
「…積極的ですね…昨日もしたのに…したい…?」
ぐっと三塚が腰を押し付けてくればもう三塚のモノが勃ち上がっている。自分だけにしてほしい…。
三塚は妹や店員さんにも隠してない…それが嬉しいのと、ピアノで褒められたのが嬉しいのと、三塚を独占したくて見知らぬ女性に嫉妬しているのが入り混じっている。
「三塚が……ほし…い…」
全部…。なんで言ってくれない?本当は言いたい。けれど、そんな隠れてこそこそ見たような事も言えなくて…。
「いくらでも…俺の全部は凪の為にあるんですから」
三塚はくすりと笑って凪の手を引いた。
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