「凪…」
耳に三塚の耳を撫でるような甘い声が響いた。
「………ん……?」
「起きた?」
半分覚醒した唇にキスが降りてくる。
「あ…れ…?………寝てた…?」
「寝てたというか…気絶したというのか…疲れたのか……分かりませんけど…」
三塚がベッドの端に腰かけながら苦笑していた。
「どれ位寝てた…?」
「30分位だけですよ」
三塚が凪の顔や耳にキスを何度もしてくる。
自分の格好を見てみたらちゃんとTシャツも短パンも穿かせられていた。
自分で着た記憶はないので三塚がしてくれたのだろう。それに汚れたシーツもちゃんと替えられている。……結局また三塚に面倒をかけてしまったのか…?
何をしたって上手くいかないじゃないか…。
思わず凪は落ち込んでしまう。
「凪?どうしました?」
「……すまない…。着替えも…」
「いいえ?全然。無防備な凪は可愛いので。覚えてない?ちゃんと自分で着替えましたけど?」
「え…?全然…覚えてない……」
「手助けはしましたけどね。子供の様に着替えさせて…凪はうとうとしたまんまで…」
くすくすと笑われるとまた恥ずかしくなってくる。
「そのまま着替え終わったらすとんと寝てしまいました。……いいけど凪?本当に別に今日は何もなかった…?」
「ないよ?」
「いい事ばっかりだった?」
「そう」
凪はこくりと頷いた。
どこか変だと気付いているのだろうか…?凪の醜い嫉妬が分かっている…?そんな所は気付かないで欲しい…。
「それならいいですけど…。やらしい凪もステキですので、もっとヤラしくしてくださいね」
「………」
かぁっと凪は自分から誘った事に今更ながら顔を赤らめた。
「ご飯にして、あとはゆっくりしましょう。疲れたでしょ?」
…お前も出かけて疲れたんじゃないのか?とは聞けない。肯定されてしまったら?いや、否定されてしまったら?どっちも怖いんだ。
「凪?」
「あ、…うん…。いつもありがとう」
「いいんですよ。凪の嬉しそうな顔を見るのが好きですから。ケーキも、選んだの食べるでしょう?」
「食べる」
即答すればまた笑われてしまう。
「……そんなに笑わなくても」
「可愛いなと思ってるだけですよ」
三塚が凪の身体を起こしてくれて凪もだるいながらも立ち上がった。
「抱っこしましょうか?」
「………いい」
「遠慮しなくていいですよ?」
こいつはふざけているのだろうか?
「だって凪だるそうだし…俺がそうさせちゃったんですから。あ、でも凪から誘われちゃったんだから…」
「も、もう!いいから!」
凪が赤面するような事ばかり口にするんだ!こいつは!
「残念…」
三塚はそう言いながらも凪の身体を支えるようにしてそしてキッチンの方に向かった。
優しいと思う、スマートだし。凪はいちいち動揺してしまって過剰に反応してしまうけど、いつも三塚は凪によくしてくれていると思う。考えてくれているのもよく分かる…。それを思えば今日のはやっぱり見間違いじゃないのか、と思ってしまいたくなるけれどでも見間違いはないと自信を持って言える。
はぁ、と溜息を吐き出しながらダイニングの椅子に座ると三塚が凪の顔を覗きこんできた。
「…大丈夫ですか?」
「…大丈夫だ」
ああ、身体がしんどいと思ってると思われたのか、とほっとしてしまう。
そうじゃなかったのだが都合はいい。
いつかちゃんと話してもらえるのだろうか…?
……そういえば三塚の個人的な事ってあまり知らない…。
「…三塚って誕生日っていつ?」
「俺?10月16日です。凪は?」
「僕は終わったばかり。7月24日」
がちゃん!と三塚が夕飯の準備をしていた皿を派手に鳴らした。
「ちょっと待って…?俺の耳…おかしくなったか…?今、凪の誕生日が7月24日って聞こえたんですけど…?」
「そうだけど?」
三塚が眉間に皺を寄せて凪を睨んでくる。
「先々週じゃないですか!」
「そうだよ?どうかした???」
「なんで教えてくれなかったんですか!」
「…え?…僕も忘れてたんだけど…。だってほら、ディナーコンサートで頭いっぱいだったから…それの…直前だった、し…」
三塚が怖い顔になってきたので凪はしどろもどろになってくる。
「………好きな人の誕生日スルーって……」
はぁ、と三塚が大きな溜息を吐き出した。
「それこそ誕生日ケーキでも作ってあげるのに…それさえもさせてもらえないなんて…」
「ち、ちがう!僕も忘れて…」
「でも後ででも思い出したでしょ?」
「そりゃ、まぁ…でも別に…いっかな…って……」
凪は小さくなって上目遣いで怖くなっている三塚を窺う様に見た。
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