「誕生日も教えてもらえない恋人って…」
はぁ、と溜息を吐かれながらじとりと睨まれ、凪は小さくなる。
「俺ケーキ職人なのに…本人ケーキ大好きなのに…誕生日にケーキなしって…」
「いや!ケーキはあったよ!」
「………そうじゃないでしょう」
じろりと三塚に睨まれる。
「ぅ……」
ほとんど毎日の様に何かかにかケーキとかお菓子とかは貰っているんだ。
「毎日のデザートじゃなくて…だって凪の特別な日なのに…」
恨めしそうに言われればたらたらと冷や汗が流れてくる。
「あの…本当に…僕も忘れてたし…」
「…………いいですよ。ええ…」
三塚が拗ねてる…。どうしたら…。
ピン!と閃いた。
「じゃ!じゃ!真ん中バースデイにしよう!」
「…はい?」
「三塚10月なんだろう?僕が7月だから9月位になるはずだ。な?」
「何ですかそれ?」
「だから、僕の誕生日を三塚の誕生日の真ん中の日に二人のバースデイ……」
…って!どこの女の子だ!
「…そんなのあるの?」
「ある…。生徒の子に聞いたんだ。お友達と真ん中バースデイするって…だから……なんかパソコンで誕生日入れると出てくるって…」
恥かしくなってきて声が小さくなってくる。
「凪、パソコン」
すぐに三塚がパソコンに向かい、凪はその後ろに立った。
「あ、…マジである」
かたかたと三塚が誕生日の日にちを入れると出たのは9月4日だ。
「じゃあ凪、この日はデートに行きましょう!レッスンも休みにしといてください。俺も休む」
「………ホントにか…?」
「ホントに。それとも凪はコンサート前で一日も休みたくない?」
「いや……さらっとでも指を動かせばそこまでみっしり練習しなくとも…一日位なら…」
「ではそういう事で!」
三塚の恨めしそうな声が元に戻って問題は解決したらしいのにほっとする。
「でも!今年だけですからね。来年からはちゃんと誕生日の日は空けといて下さい」
「……………」
きょとんと凪はパソコンの前に座っている三塚を見た。
「…どうか?」
「来年…からは…?」
「ええ。当然でしょう?毎年ちゃんと空けといてくださいね」
来年もその次の年も?もっと先も…?
凪がはにかむと今度は三塚がきょとんとした。
「凪?何?どこが嬉しかった?」
「え?だ、って…毎年って……」
「当たり前でしょう」
当たり前…。誕生日を誰かに祝ってもらうなんて凪には全然当たり前じゃなかった。だからこそ自分でも忘れてた位で後からああ、26になったんだな、と思った位だったのに…。
「嬉しい…」
「……先に言っててくれればよかったのに」
三塚が凪の頭を抱き寄せてキスしてくれる。
幸せだ、と思えれば今日の事などどうでもいいような気がしてきた。きっと理由があるのだと。
信じる、と言ったのだから信じないと…。
「……三塚…」
「はい?」
三塚の声が近い。照れる。でも…言いたい…。
「……好きだ」
「……っ。……俺もです。凪……どうしよう…?も一回していい?」
「え?」
「だってそんな事言われちゃったら……」
いや、ダメじゃないんだけど…さすがに…ツラいかな…と少し焦ってしまうと三塚がくすりと笑った。
「凪が明日ツラくなりますからね。無理しなくていいです。………しかし、真ん中バースデイなんて!」
くっくっと口を押さえて三塚が笑い出した。
「だ、だって!三塚が怒ってるから!」
「怒ってるんじゃないです。好きな人の誕生日も祝えないなんて自分が不甲斐ないでしょう。……しかし真ん中バースデイ…凪、可愛い」
「いや!別に僕はしなくとも…」
「だめです~。豪華なケーキ作ってあげますね」
「………ん」
それは嬉しいかも…。でも三塚の誕生日にはどうしようか…?凪に出来る事は何もないのに…。
とりあえず今は三塚の機嫌が直った事に安心した。それになんと言っても毎年って言ってくれたのが凪には嬉しかった。やっぱり信じて待つ事にしよう…。だってこうして三塚は凪の傍にいてくれるのだから…。今もこれから先もってことだ。いいけど、自分も何か三塚にしてあげられる事をみつけないと。三塚はいい、というけれど、少しは凪も料理を覚えようか?そうしたらちょっといくらかは役に立つかもしれない。
一人でいた頃なんか食事なんて凪の中では重要事項に入っていなかったのだが、今は三塚のおかげで分かるようになった。だっていつも心が温かくなるから…。自分だってそう思われたいと思うんだ。
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