結局そのままどれも何も変わる事なく日々だけが過ぎていった。
凪は家で自分の練習とレッスン。三塚は毎日凪の家に帰ってきて一緒に時を過ごす。お盆で凪はレッスンが休みの時もあったが、三塚は一日だけ休みで、お父さんと妹さんとお墓詣り。そのあと凪の母親のお墓詣りにも連れて行ってもらった。
三塚と一緒にいる時間はドキドキしたり動揺する事も多いが穏やかな時間が流れていると思う。
それはきっと凪が心を許しているからだろうとも思う。母親といるときですら心安らぐ時間はなかった。まるで監視でもされているように思っていたかもしれない。
生きていれば父の事も聞けたし、ピアニストになってコンサートなどが出来るようになった今なら落ち着いて向き合って話が出来たかもしれない。
…でももういない。ピアニストに、と散々ずっと凪に言い聞かせ、その母の夢が叶った途端にいなくなってしまったのだ。
ステージでのピアニストの凪も見ないでまるでピアニストになって安堵したかのようにいなくなってしまったのだ。
凪がピアニストになることだけに、と言っていいだろう、執念を見せていたので本望だったのかもしれない。
…母親の事まで思い出すなんて。
いや、今が幸せだと思えるから思い出すのかもしれない。心に余裕があるから…。
自分は幸せで満足と思いながらも、三塚の事は気になって…、毎日確かめるように仕事を終えた後三塚に抱きつくようになった。…匂いを確かめるために…。疑ってるんじゃないと自分に言い訳しながら…。
いつも三塚の髪からも甘い匂いが漂ってくるのにそれが薄い日があった。いつも三塚からはチョコかクリームかの甘い匂いがするのに…。それに気づいてからは毎日匂いを確認するようになった。
…嫌なヤツ、と自分でも思うけど気になるんだから仕方ない!でもそれが分かったからといってどうして?なんて聞くつもりはなかったけど…。
やっぱり気になるのは気になるんだ。
匂いが薄い日はほんの数える位で一週間に一回もない。
そしてここ最近試食がやけに多い。
秋冬用なのだろうか?
しかもケーキだけでなくパンケーキとかまで試食だ。
いつもはおいしい、とだけ言うのが普通なのに三塚がしつこく色々聞いてくることが多い。もっと生地を柔らかくしたほういいか、とか、甘さはどうか、とか。見栄えの事も。事細かにだ。それが熱が入って熱心にメモにまで取っていて、改良した物も必ず確認させられた。
凪はケーキ大好きなので全然いいのだが、自分の意見で自分の好みでいいのかな?と思う。いや、全然改良版じゃなくたって三塚の作るデザートは十分凪にはいつも垂涎のデザート達なのに。
研究熱心でアイディアが湧いて出てくるなといつも感心してしまう。そして凪は次は何が出てくるのだろうといつもわくわくしてしまうんだ。
ケーキを買いに行くのが恥かしくていたのにそこも満たされて、いいのかな?と思う。別に三塚がおいしいものを食べさせてくれるから好きになったわけじゃないけど…なんかその為に一緒にいるような気がしてならない…と思うのは凪だけなのだろうか?
三塚はそうは思わないのだろうか?
この日もまたご飯の後に立派なデザートが出てきた。
今日はチーズケーキらしい。
「スフレのチーズケーキです」
「…わ…っ!ふわふわ…だ」
半円の形でころんとしていてふるふるしている。
「フォークよりもスプーンの方がいいかな…?」
フォークを刺したらふわっととろりとしてる!口にいれると蕩けて溶けてなくなった。
「おいしいっ」
やっぱり幸せだ。
「レモンの効き具合はどうです?生地はもっと硬い方いいですか?」
「レモンは強い気がするけど、さっぱりしてて爽やかな感じだよ。生地は僕は固めの方が食べ応えあるから好きだけど、これはこれでおいしい!さっぱりしすぎてるから上にちょっとだけホイップがベリー系にソースかけてもいいかも。ブルーベリーかストロベリーか…あ、オレンジでもいいかな…。それにミントとか載せれば見た目ももっと綺麗で豪華で可愛くなりそう…」
「うーん…かけると染みこんじゃうかな…考えてみます。……いいけど…凪…毎日食べさせられて飽きない?」
「飽きる?ケーキに?全然?毎日同じのだったらさすがに僕でも飽きるかもしれないけど…ないよ?むしろ僕の方が毎日おいしいのいただいてばっかりで申し訳なくて…」
「俺の方こそ全然!すごく助かります!妹には文句たられますよ…しょっぱいのが食べたい!って」
「え~……毎日でもおいしいのに…」
凪が呟くと三塚がくっと笑った。
「やっぱり俺には凪がぴったり合ってるって事かな?」
「そ、そ、…そう…」
…だといい…。
顔が仄かに熱くなった。
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