はのんのBL部屋

　凪に試食してもらって店のバイトや父親や妹にも意見を求めてカフェのプランを練っていく。
　凪は結構今までもあちこちのケーキ屋さんを食べているらしいけど、今は絋士の作る物だけで満足らしい。自分のケーキのどこがそんなに気に入ってくれているのかは謎だが、味覚が合うという事なのだろうか？

　いつも凪は目と表情を輝かせてそして顔を紅潮させ幸せそうにケーキを頬張る。それが可愛くて可愛くて…やっぱり誰にもあの顔を見せるわけにはいかないと思ってしまう。
　今日は話を進めるためにまた東京へ行ってその帰りの電車。いつもよりも少し遅くなってしまうが…。それに今日は店に出ていないから凪へのデザートがない。即席でクレープとかにしようか…。　

　今では凪の家にも道具や材料を常備しある程度の物はささっと作られる環境になっているので問題はない。凪の家の広いキッチンは今はもう絋士の物だ。
　それはいいのだが…今日も帰ったら匂いを確かめられるのだろうか…？

　くん、と絋士は自分の肩あたりに鼻を寄せて匂いを確認した。勿論自分じゃ全然気付かないが、凪には東京に行った日はどこか違和感を感じるらしい。
　いつも東京に行った日は凪は微妙な表情をしてそれでも絋士に聞く事も問い詰める事もしないでただ夜にエロく豹変する。ちょっとそれが嬉しいな、と絋士は気付きながらも放置していた。

　凪は多分少しだけ不安に思っている。けれども絋士の事を信じているし、信じたいと思っている事も分かった。
　だからこそ早く事を決め、自分だけの一歩を進め凪に話をしたい。
　凪の言った真ん中バースデイの日までにきりっと話をつけたい所だ。

　そして安心させてコンサートに向かわせたい。今の所はまだ凪にぴりぴりとした雰囲気もないからいいけど…。
　立花　創英から聞かされた父親の存在を示唆する話も信じていないのか今更と思うのか凪は一言も話さない。聞けば立花もどうやら確証を得た話ではないらしいが…惑わすような事を言わないで欲しい。凪の肩に図々しく手を回していた姿を思い出しただけでもむっとしてしまう。
　
　人を見下したような目で見るいやな野朗だった。凪が気にしていないのが救いだが…もし立花が本当に知っているのだとすればいずれ話はしなくてはならないのでは…？コンサートが楽しみだ、とか凪に言い捨てていったらしいが…。コンサート前に凪が動揺するような事は避けさせないと。

　やはり凪に常時ついて余計な事から凪を守ってやりたい。
　そのためにも今の話を纏めて自分に道を作らなくては。
　がたん、と電車が揺れた。
　「すみません！」
　電車は帰宅時間に重なってかなり混んでいて身動きもとれない状態だ。

　「…いえ」
　キツい香水の匂いを撒き散らす女だった。その女が絋士の前に立っていてどうしても身体が密着してしまう。
　以前だったらおいしい状況だと喜んだだろうけど、今は全然そんな気にはならなかった。今まで抱いてきた女の誰にも執着する事もなく性欲処理とちょっとそのためにデートなどに付き合っただけといっていい感じだったのだが、確かに今思えば酷いヤツだったと思う。自分に本当に好きな相手が出来て初めて分かったことだ。思い出されるのはエロい凪の姿ばかりで女が擦り寄ってきても欲情しない。

　……それもどうなんだろう？という気もしないでもないが、今はとにかく凪がいればどうでもいい事だ。
　またがたんと電車が揺れると女が体勢を崩し、絋士の胸の辺りに顔をつけてきた。
　「す、すみません…」
　「……いえ」
　わざとなのかそうじゃないのかは知らないがきつい香水の匂いが気持ち悪い。

　……匂いが移るだろうか…？
　どうも凪は匂いに敏感らしいのでそこを懸念してしまうが…。
　どっと大きな駅で人が降りて少し車内に余裕が出来、絋士はほっとして女から離れた。残念そうな表情をちらっと見せた女にわざとか、とチッと舌打ちしたい気分になってしまう。

　余計な匂いが移ったらどうしてくれるんだ。…ほんの少しの時間だけだったので大丈夫だと思うし、スーツは自宅で着替えてから凪の家に帰るので大丈夫なはず。
　ちょっといつもよりも時間が遅れて凪のレッスンの終わる時間ギリギリ間に合うかどうかという所も懸念するが…。
　もうそろそろ本決まりになりそうだし凪に余計な心配をさせないためにも言ったほうがいいか…？と考えてしまう。
　本当はちゃんと正式に決まってから言いたいのだが…。

たくさんのポチいつもありがとうございますm(__)m

にほんブログ村

小説(BL) ブログランキングへ
にほんブログ村 BL小説