9月4日。
天気はいいらしい。目が覚めると朝日が差し込んでいた。隣には三塚が眠っている。
そっと手を伸ばして少し髭の伸びたざりっとした頬を撫でた。
「…ん?」
「おはよ…」
「おはよ…朝…?」
三塚が凪の身体に手を伸ばしてきて抱きしめられるとそんな朝の他愛ない時間がいいな、と気持ちが温かくなってしまう。
「誕生日…おめでとう…終わってますけど」
「三塚も。誕生日おめでとう。まだだけど」
ガキ臭い…と思うけれどくすぐったくて嬉しい。三塚も同じらしくくっと笑ってそして軽くキスする。
「起きますか。凪が練習終わったら行きましょう」
「待ち合わせって何時だ?」
「午後三時です」
ベッドから起き出して着替えを済ませ軽くパンで朝ごはん。
「泊まるのいいですけど、ケーキは失敗ですよね…。まさか持って歩くのも邪魔だし…」
はぁと三塚が溜息を吐き出す。泊まるのを決めた後にケーキが!と三塚が慌てたのだ。
「三塚のケーキはいつでも美味しいから…明日…楽しみにしてる」
「気合入れて作ってきます」
「今日は今日で楽しみだ」
「……じゃ、凪は練習して。家の事は俺がしておきますので」
「すまない…」
「全然!いっつも凪がしてる事ですからね」
洗濯とか掃除は午前中が空いている凪がしている。…と言ったってそれは前からなので何も変わりはなく三塚の物が増えた位だ。
住み始めた頃三塚は自宅で風呂も洗濯もしてたけど、今は凪の家で風呂も洗濯も一緒。光熱費食費全部折半にしましょうと三塚がきっちりと言って来たのでそうなってるけど。
食事の用意の負担を考えると絶対三塚の方が大きいと思う。今まで凪は買ってきて終了だったのに、三塚は仕事終わった後でもまた食事の用意でデザートまでついてくるんだから…。本当なら凪の方がお金を払ってでもお願いしたい所だ。
「あの、凪が貰った曲が聴きたい!」
車に乗ってから三塚が言い出した。
「コンサートでカンパネラは弾かないんですよね…?」
「弾かないな」
「カンパネラも…聴きたい」
「…って言われても」
「…凪、全然弾いてくれないから」
桐生 明羅から貰った曲も初めて初見で弾いた時以来三塚の前では弾いていない。
「あの曲…は…あ!CDって言ってましたよね!じゃあアンコールでCDに入る!?」
「多分ね」
「あ…じゃあいいか。ハンガリーも好きですし。巡礼はコンクールで弾いたの思い出すのであんまり…ですけど」
「…そうだよな…三塚もコンクール出てたんだよな…」
「出ただけ、ですけどね」
運転しながら三塚が肩を竦めた。
「三塚も…音大行ってたら…それでも会えた…かな…?」
「多分ね。そしてやっぱり凪の世話しますよ。料理とか俺は昔から得意でしたからね」
くすっと笑ってしまう。
「…そうなのか?」
「そうです。きっと凪を一人で放って置けなくて…そうなりますよ」
「でも…ライヴァルになるんだぞ…?」
「なりませんよ。そんなの分かりきってる事です。前に…凪が大学の頃に付き合ったという男。…馬鹿でしょ。そいつは今何しているんです?」
「よくは知らないけど…地元に帰って音楽教師になったとか先生から聞いたような…」
「でしょうね。ピアニストなんてそうそうなれるもんじゃないですから。凪はもっと自信持てばいいのに…俺なんかの前で弾くのが恥かしいって!ないでしょ!」
…そこに繋がるのか。
「別に嫌なんじゃない…。ただ…三塚にはいい所を見て欲しい…って思うだけだ」
「……………そんな事言われたら我慢するしかないじゃないですか。分かりましたよ。当日まで大人しく待つ事にします」
「………僕だって聞きたい事あるけど我慢してるんだから」
「…ん~…そうですけど。すみません」
三塚が苦笑を漏らす。
「…という事は同罪ってこと?」
「そういうこと」
「なんか違う気がしますけど」
凪も笑ってしまう。
「まぁ俺だってかっこつけですけど…凪もなんだ?俺的には弱ってる凪もいいんですけどね。俺にだけ頼って縋ってって感じで」
「……その通りだよ?僕には三塚しかいないから…」
「凪!」
車が信号で止まった隙に三塚がキスしてきた。凪が目を見開いていると横断歩道を渡っていた若い女の人と目が合ってしまった。
じっと見られて恥ずかしくなって顔を俯け三塚の腕を叩いた。
「見られたじゃないか!」
「いいでしょ」
「よくないっ!」
気になってちらっと見てた女の人に視線を向けると笑みを浮べながら車の方を振り返り横断歩道を渡っていった。
嫌悪感じゃなくてにこにこ顔だったからいいけど…恥かしい!
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