三塚の腕にぶら下がりたい気分だがまさかスーツ姿の男同士でそんな事も出来るはずもなくコーヒーショップを出て三塚の同級生がいるという店に一緒に向かった。
普通の日だというのに人の数が多い。
そんな中をスーツ姿で歩くというのも凪はない事でなかなか面白いと思ってしまう。
営業なのかやはりスーツ姿で連れ立って歩いているサラリーマンも多くて自分達もなんら違和感は感じないのがなんか普通に思えてしまう。
実際は会社勤めなんかもした事ないが普通の人の気分はこんな感じか、なんて新鮮に感じてしまうのが変な感じだ。
「なんか変な感じですね?俺達も普通のリーマンに見えるかな?」
三塚もやっぱり同じ事を思っていたらしい。
「どうだろう?…僕も同じ事思っていたけど…」
ちらと隣を颯爽と歩く三塚を見て笑ってしまう。
「どうしたってパティシエとピアニストには見えないだろうね」
特殊な職業なのに!
なんか人を騙しているかのような不思議な気分だ。
そのまま三塚の同級生がいるという店に向かった。
宝飾店?アクセサリー店?
高級なではなく少し若い人向け…?
凪はブランドなどに全然詳しくなくて分からないが、お洒落な感じ。でも平日の日中だからか、お客さんはいなかった。
「よう!」
「あ。マジできた」
「来たけど…人入ってねぇな。大丈夫か?」
「土日は満杯になる位にくるんだよ!」
三塚が友達と話している間凪は店内を眺めた。欲しい物ってアクセサリー?でも三塚ってしてないけど…?凪もしてないし。
何がいいんだろう?
そんな事を思って店の物を眺めていた。
「野田は元気か?」
「元気だ。夫婦で仲良くやってるよ」
「お前は?随分遊んでたけど。まだ?」
ぴくっと凪の耳が反応する。…誰にでもそんな事言われる位って一体三塚はどれ位遊んできたのだろう?本当に自分なんかで満足なのだろうか?とちらりと三塚に視線を向けると三塚が凪を見て苦笑してた。
「おい、勘弁してくれよ」
「……ん?…え?」
きょときょとと三塚の友達が三塚と凪を見比べる。
「もしかして……?」
「凪」
呼ばれて三塚の方に寄っていき、三塚の友達に小さく頭を下げた。
「指輪買って?」
「…いいけど…」
「俺も買ってあげますから」
…………それって…、もしかして…。
かっと体が瞬時に熱くなる。
「おい。あんまりゴツくない細めのやつ出せ」
三塚が友達に向かって威張ったように言っている。
「…サイズ。手出せ」
三塚がお店のカウンターに出した手は左手。三塚の友達は何も言わないで三塚の左手の薬指のサイズを測っている。
や…やっぱり…そういう事…なのか…?
「はい、そっちの人も手」
真っ赤になりながら顔を俯けそれでもそっと手を出した。お店に誰もお客さんがいないでよかった…。
三塚の友人が凪の指のサイズを測りながらじいっと食い入るように見てきた。
「見すぎだ!」
三塚がげし!と友達の頭を拳骨で殴ったのに目を見開く。
「いや…綺麗な人だなぁ…と思って。手も綺麗だな…」
「……お前、死にたいか?いつまで凪の手握ってる!」
ぴ、っと今度は友達の手を弾いて凪の腕を引っ張ると凪の視界の前は三塚の背中に覆われた。
「いや!褒めただけだろうが!つうか…本気の本気だ!三塚が!」
「……一体誰も彼も俺の事なんだと思ってやがるんだ?」
「最低ヤロー」
きっぱり言い切った友達に三塚は今度は拳でこめかみをぎりぎりと押して回しているらしい。
「うわ!ギブ!いてぇ!マジやめろ!」
子供のじゃれ合いみたいな二人に笑ってしまう。
「凪…気にして…ないみたい…ですね」
凪が笑うと三塚が慌てて振り返り凪の顔を覗き込む。
「お前好かれてねぇんじゃねぇの?」
「うるせぇ!」
「気にしないよ。過去は過去だ」
「…凪」
そう…今こうして一緒にいてくれるんだから…それでいい。
今日も一緒で、明日も…それがずっと続けばいいんだ。
三塚が凪の頬に手を伸ばそうとしたけれど、それはちょっと、と凪はその手を止める。
「あー!はいはい!分かったから!イチャコラは余所でやってくれ!で!指輪だろ」
「あ、そうそう」
三塚が苦笑して友達の方に向きを直した。
「…お前ってわりとあからさまなヤツだったんだな…知らんかったわ」
…いいけど…しかし三塚の友人は誰も凪との事を普通に見ている。それの方が凪にしてみたら謎だと思う。
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