「俺の中心にいるのは凪ですよ。プロデュースだったらある程度自分の時間が自由になれる。スケジュールもね。凪に合わせるために。でもあるんですから」
三塚が向いから手を伸ばして凪の頬を撫でた。
こんなに…ほんのちょっと離れて住むと、これは凪の思い込みだったけど、そう思っただけでこんなに動揺してしまう。
だってもう知っている。毎日隣に温かい体温がある事を。腕がある事を。
もうすっかり体が覚えてしまっているんだ。
それがなくなるなんて考えられない。
料理はメインデッシュは終わって残すはデザートのみ。
「…凪、デザート食べないでホテルに帰りましょうか?」
「ヤダ」
「………でしょうけどね」
はぁと三塚が溜息を吐き出し、そして仕方ないなと言わんばかりに笑った。こうやって何気ない所で笑う所も好きなんだ。
「……そんなに俺と離れるの凪は嫌なんだ…?」
「………ヤダ」
三塚が口元を押さえながら凪を見ているがちょっとキツ目の目尻が下がっている。
「離れませんから」
「………」
こくりと小さく凪が頷くと三塚が今度はテーブルに肘をついて頭を抱えた。
「……早くホテル帰りましょう」
「…ヤダ。デザート食べる」
「ですよね。分かってます。…凪、もっと言って?甘えていいんです」
「……かなり言ってる…と思うけど…?それに…甘えて…る」
「え~?それで?全然ですよ」
「…そう、か…?」
自分から抱きついたりなんてした事ないのに三塚には出来る、って事は甘えてると思うんだけど。
「そこで今思った事はい、言って」
「え?…僕から抱きついたりとか…してるから…」
「甘えてるって?」
そう、と頷くと三塚がはぁ、と小さく溜息を吐き出す。
「あれは甘えるというか凪がしたい気分になった時でしょう?そうじゃなくてもいいですよ、って言ってるんです」
「べ、別にそんなつもりなんかじゃない!」
したいとか!……確かに思ってるけど…。それは三塚だからであって他の誰にもそんな事されたいとなんか思うはずもないし。
「いつでも凪のしたいようにしていいし言っていいです」
「……でもじゃあ…三塚は?」
「俺?好きなようにしちゃってるでしょ。勝手に凪の家に住み着いて。凪を風呂場に連れ込んでそのまましちゃったり。あ、これは凪もしたいのかな?って時だけど」
「そ、そういう風にずけずけ…言うとこは…嫌だ」
「嫌じゃなくて恥かしいでしょ」
分かってるんじゃないか!
「勿論。恥かしがって顔を赤くする凪が可愛いからわざと言うんですからね。凪も遠慮なんかしないで言っていいですよ?…ああ、でも結構凪キツい事も言うからなぁ~…」
「え?」
キツい…?何かキツい事言ったっけ…?顔を顰めて首を捻るが全然分からない。
「気にしなくていいですよ?そんなとこも密かに好きですから。凪だったらなんでもどこでもいい、って事ですね」
…凪だって三塚の嫌いなところは今の所ない。あれこれ外で言われたりするのには困るが、三塚の言う通り嫌いというのではないんだ。
デザートお持ちしました、と声が聞こえて会話を止める。そして伝票を置いて店のギャルソンがいなくなった。あとはもうこれを食べてホテルに戻るだけ…。
「凪、早く食べちゃって」
「え?あ、うん」
「あ。俺の分もどうぞ?あ、一口だけ下さい」
三塚が自分の分のデザートの皿を凪の方にスライドさせ代わりに口を開ける。
…可愛いな、とまるで餌を待っている雛のような三塚に口端を上げながら凪はフォークでデザートに出てきたムースとチョコケーキを一口ずつ三塚の口に運ぶ。人の目がないから出来るけど、やっぱり可愛い…。たまに出る三塚のこういう所とか照れる所とか…も好きだな、とじっと三塚を見る。三塚は考え込む様にして口の中のケーキの味を確かめていた。
「フランボワーズのムースですね。どちらも甘さも控えめでもっと食べたいと思う位の量だし…」
凪もフォークで自分の口に運ぶ。確かに量は少なめだけど、そう思わせるくらいだからいいのだろう。凪的には全然足りない位だけど。
「アレ?………?」
「ん?何?」
不思議そうに三塚が凪をじっと見ていた。
「凪…普通に出来るんだ?」
「普通?」
ぱくぱくとケーキとムースを口に運ぶ。おいしいけど、やっぱり三塚の作った物の方がおいしいかな、と思いつつ。
「何食べても顔が崩壊するのかと思ったら…違うんだ?」
「……」
崩壊って…。
黙って凪はケーキをぱくついた。
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