レストランを出てホテルへ。レストランからは近くだったのですぐに着く。車は置かせてもらっていたけどチェックインはまだで三塚がフロントでチェックインを済ませた。
部屋はツイン。三塚がダブル、なんて言ったけど男二人でダブルは…。部屋が空いてないのだったらいいけど、まさかそんなわけにいかないだろう。
部屋に案内され一通り説明を受ける。そういえば誰かと同じ部屋にというのも初めてだ。コンクールの時など先生がついてきてくれたことはあっても部屋は別々だったし好きな人だったわけでもないのだ。…やっぱり落ち着かないし夢見ている感じだ…。
凪がぼうっとしたままでいると説明が終わり部屋に三塚と二人きりになると心臓が鳴りはじめて息もしづらくなってくる。
「凪」
「な、なに?」
体温が急に上昇してくる感じにかぁっとしてくる。
「部屋…暑くないか?」
「そう?全然そんな事ないと思いますけど」
三塚は普通なのか平然としているみたいでちょっと悔しい。
「こっちきて。…ああ、上着は脱いだ方いいかな」
三塚が凪のスーツの上着を脱がせハンガーにかけ、自分のもかけると凪の手を引いてベッドに座らせた。手には買ってきた紙袋だ。…指輪の。
がさりと三塚が紙袋から小さな箱を取り出しているが、その間がいたたまれなくてますます顔が熱くなってくる。
「…緊張してるの?」
そんな凪の顔を覗きこんで三塚が突っ込んで来た。見ないふりしといてくれればいいのに!こういうわざわざ確認する所は意地悪いと思う。
「してる」
仕方ないので認めると三塚がくすりと笑いながら箱を開けた。そこに光二つの指輪。
「真ん中誕生日で記念日にしましょう?」
三塚が細い方の指輪を手に取ると凪の左手を取りそっと凪の指に嵌めた。そして箱を凪に渡してきたので凪も残った一つの指輪を取り三塚が差し出した左手薬指にゆっくりと通した。
「ちゃんとね。けじめつけたいので。なし崩しに凪の家に転がり込んでましたけど…。色々あちこちで言われますが、俺が自分で一緒にいたいと思ったのは凪だけです。世話したいのも抱きたいと思ったのも…。本当はピアニストもやだな…と思います。俺には入っていけない世界だから。桐生 明羅の曲のプレゼントに嫉妬しました。俺には出来ない事ですから。ピアニストの凪の力になれる事も一つもありません。それでも…あのステージに向かう姿が目に焼きついて、思い出す度に凪を捕まえておきたくなる。大丈夫、俺がいますと言いたくなる。一人よがりな思いですけどね…」
「そんなことない…」
三塚の言葉にぐっと気持ちがせり上がってきて顔が歪んでくる。甘えていいと言った三塚のネクタイをぐっと引っ張り三塚の肩口に頭をつけた。
「…一人だった。ずっと…。でも…もう…」
三塚の手が凪の肩を抱き寄せてくれる。
「ずっと一緒にいて欲しい…笑っていて欲しい…」
「デザートも食べさせて欲しい?」
「………うん」
「頷くんですか!」
だって…。
「そこはそれだけじゃない、と言ってくれないと!」
「だって…おいしいから…三塚のケーキ好きだし…」
くっくっと三塚が肩を揺らして笑っている。
耳に響く三塚のいい声に酔ってしまいそうだ。そんな声で甘い事言われてもう力が抜けてきそう…。
「凪の為でしたらいくらでも作ってあげます…。ケーキ食べて幸せそうにしている凪見るのが一番好きですからね。凪…」
三塚が凪の顎に手をかけてくるとくいと上を向かせられた。
「キスしていい?」
なんで…いちいち聞くんだ…?いいに決まってるのに…。
「誓いのキスですよ?いい?」
「ぁ……」
指輪交換で…そういう事か…。
目をぎゅっと瞑って小さく頷くと三塚の唇が軽く重なった。
そうだ…今日はずっと抱きつきたくて…。
凪がおずおずと腕を伸ばし三塚の首にしがみついた。
離さないでほしい…。ずっと捕まえていて欲しい。
三塚の首に巻きつけた自分の左手に指輪の存在があった。まさかこんな風になるなんて…。一緒にいられるだけでもうれしいのにこんな事まで。全部が非現実的に思えてくるけど…でも本当の事なんだ。
三塚の軽く合せるだけだったキスが深くなっていく。舌を絡めて息をあげ、唾液が混じり体温が溶け合いそう…甘くて体が痺れて力が抜けそうで…そして何度も何度も唇を合わせる。足りなくてもっと欲しくて。貪欲にすべてが欲しくなってしまうんだ。
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