真ん中バースデイの次の日は三塚が小さなホールケーキを作ってきてくれてやっぱり三塚のケーキがおいしいと満面の笑みが出れば三塚に笑われる。
そんな甘ったるい日も来週からはちょっとお預けになりそうな感じだった。
三塚がプランニングの仕事で東京に連日通うようになり、帰りが遅くなってしまうらしい。
でも勿論そこに文句などはない。ただちょっと寂しい気分にはなるだろうな、と思うだけだ。
レッスンが終わっても三塚の姿がないというのは一緒に住む様になってからははじめてなんだ。でも三塚は三塚のやれることを凪は凪でしなくてはいけない事をするだけ。
こうなってくると三塚の言う東京に住む、というのが現実味を帯びてきてしまう。ここに帰ってくると言うけれど行き帰りの時間を考えればそれはかなりキツいはず…。
離れたくはないが自分の為に無理して欲しいわけでもないのだ。
凪のコンサートは21日。カフェオープンが19日。日にちこそ重なりはしなかったけど、忙しいのは重なっている。
来週はまだレッスンはあるが。再来週は凪はコンサート前で生徒のレッスンを休んでいた。コンサート前には東京に行けばどこかワンウィークアパートとか、ホテルでもいいけど…そうしたら三塚も楽なんじゃ…?
密かにそう考えた。
ネットで探してみればいくらでもそういうのが出てくる。
そうしようとパソコンを見ながら凪は頷いた。
月曜日、東京までいかなければならない三塚は早起きだった。
今日は契約に打ち合わせにカフェに行って作り方の指導とか色々とあるらしい。
「凪、帰り何時になるか分かりませんからご飯は食べてて下さい。俺は多分食べてくると思いますので気にしないで」
「…というかいいよ!自分が大変なのに僕の分まで。三塚がいるから今は食べられないとかってないし」
「ダメ」
ばたばたと三塚がスーツ姿で出て行のを後ろから追いかける。
「じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい。がんばって!」
「はい」
軽くキスして三塚が出かけていった。
車の免許があれば駅まで送って行ったり迎えにいくのに…。それも出来ない自分が不甲斐ない気がする。
コンサートが終わったら免許も取ろう…。どうせ凪は午前中は時間が自由だ。三塚に黙っていたって分からないだろう。
凪が駅まで迎えに来てもらったときに嬉しかったから…。自分もそうしたい。
無気力と言っていい位だった自分が変わるもんだ…と三塚を見送った玄関で凪は感慨に耽った。
「あ、洗濯しよう…」
洗濯とかは出来るのにどうして料理は出来ないのか…。元々食に対しての欲が薄い所為かもしれないが…。前の思ったが少し覚えようか…。そうしたら三塚が忙しいのにわざわざ凪の分の用意なんてしなくていいんだ。
とりあえず三塚がちゃんと凪の元に帰ってくるという前提があれば大丈夫なはず。あんな栄養失調で倒れるなんて醜態は晒さないですむはずだ。
「…なんかやる事いっぱい…」
ピアノの練習もしなくてはいけないし。生徒さんが来るので練習出来る時間は少ない。
…確かにコンサートがランダムに入るようになったら生徒さんがいたら練習の時間は削られるわけで練習もまともに出来なくて人前でお金を貰って演奏なんて出来るはずもない。コンクールなどとは違うんだ。ステージでは最高の演奏を出さなくてはならないんだ。
「考える事もありすぎる」
洗濯機をセットして三塚が用意していってくれた朝食を一人で食べる。
おいしいけどおいしくない…。
いつも向かいにいる人がいないだけでこんなに心細いなんて…。
「変だろ。ずっと一人だったのに!」
何でもなかったのに…。それに何故か独り言が多くなっている。
どこか不安なのだろうか…?別に三塚が帰って来ないわけでもないのに…。
きっとちょっと慣れないだけだ。自分の事よりも三塚の事だ。何時位までかかるのだろう?忙しくなるってあの女の人も言ってたけど…。
詳しい事は凪には分からないけれど、試食がずっと続いていたのはこのためだったのだ。そしてそれを元に三塚の新たな仕事が決まった。そしてそれが成功するかは今日からにかかっているのだから凪が寂しいなんて言っていられない。
分かっているのに…それでも一人が寂しいと心が訴えるんだ。
こつっと自分の頭を叩く。
並んだご飯に泣きたくなってくる。忙しいのにこんな事までしてくれてやっぱり厄介にしかなっていないじゃないか…。
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