三塚が帰ってきて抱きついたまま離れられなくなった。そのまま風呂に連れて行かれて一緒に入る。いつもだったら恥かしくて断るけれど、今日は離れがたかったから…。
安心する…。日中あった事がまるで嘘のように三塚も甘やかしてくれる。して欲しい事してくれて…キスも抱擁も。
そうされるだけで凪の動揺してささくれたった心が安定した。
話したほうがいいだろうか、と思ったが三塚にも疲れた様子が見えて凪は話すのをやめることにした。
休みの日とか、もっと時間が取れるときに話そう。今は三塚だって自分の事で忙しいし、気を張っているはず。とりあえず凪は日中は動揺したけれどこうして三塚の腕に納まれば安心出来るのだから大丈夫だ。
「仕事…どうだった?」
「うん。いい感じです。これから先も季節限定メニューとかも考えて欲しいって」
「よかった!三塚のデザートは本当においしいから!」
「凪のおかげですよ?」
「それはないと思うけど」
「あります。凪の言ってくれた事とかかなり参考にしましたからね」
「別にたいした事言ってないけど…。元々三塚のデザートは見た目も綺麗だし、美味しいしだから…何もないけどな…?」
風呂から上がってベッドに横になりながら三塚の話を聞く。どうやらいい感じらしくて安心した。
まぁ、三塚のスイーツならそうだろうとも、と凪の方が自信満々だ。
「…お疲れ様。明日も朝早い…?」
「ええ。今日よりはちょっと遅いですけど」
三塚の腕に縋って肩に頭をこすりつけた。
「……凪?何かあった?」
「ないって言ってるだろ。甘えていいって言ったからしてるのに…じゃあしない…」
「いえ!いいんですけど!」
三塚の手が凪の頭を撫でてくれる。どことなく変なのを三塚も感づいているのか…。今日がたまたま三塚の初めていない日でよかった。そうじゃなかったらきっと動揺はすぐに三塚にバレたはずだ。
ふわ、と疲れたのだろう三塚が大きく欠伸をした。
「疲れただろ…?寝よう…おやすみ」
「ちょっとね。さすがに俺でも緊張はしましたからね。凪も寂しんぼお疲れ様です。明日も寂しんぼかなぁ~?」
「…明日は大丈夫だ」
「え~?いいですよ?」
「おやすみっ」
「…おやすみ」
くすくすと三塚が笑いながらキスして電気を消すとあっという間に眠ってしまったらしい。
…やっぱり相当疲れていたのだろう。通勤の時間も疲れを倍増させているのかも…。
来週はどこか借りてもっとゆっくりに出来るといい。
密かに凪の考えている事を思って悦に入る。きっとそうすれば三塚も楽なはず…。
確かに三塚の言っていた事を考えた方がいいのかもしれない。
凪のチケットも完売で追加公演しませんかというオファーも受けていた。それにCDも…。
まさか自分がそんなピアニストの仲間入りするなんて思ってもいなかった事だが嬉しくもある。三塚が言っていた事が現実味を帯びてきた。
それはいいのだが…。
自分に流れている血の中にピアニストの立花 初の血が流れているのだろうか…?
どうして父親の存在が分かった今の方が心細い感じがするのだろうか…?
母親にピアニストになるの、と言われて育って…それは凪の中に立花 初の血があって言ってた事だったのだろうか…?
問いかけても答えてくれる人はもういない。いったいどういう考えを持っていたのかなんて全然分からないのだ。
凪が言われていたのはお母さんがピアニストになれなかったから代わりに、そうだったはずなのに…。でもそれだけじゃなかったという事だ。
しかも立花氏から母親は去ったと…。そのくせ養育費は貰っていた…。一体なにをどう考えていたのか。立花氏もその通りで、凪の存在は知っていたらしいのに今の今まで何もアクションを起こす気はなかったという事だ。母親が亡くなった事も知らなかったのかもしれないが、会いたいと本当に望んでいればどうにかできたはずだ。大学の時だって凪はずっと一人暮らしだったのだから。
今回創英が高比良の姓をたまたま何かの折に言ったのかもしれない。それに初氏が反応したのだろう。…そうでもなければこんな出だしたばかりの国際コンクールでの上位も取っていない凪はピアニストの中でも埋もれた存在だろうから…。大御所の初氏は気づきもしなかったんだ。
いや、今更父の存在など求めていない。父親はいないでいいんだ。
戸籍上にも記載はなかった。いないでいい。
ただそれを知ったあの創英の視線が気になった。凪を嘲笑うかのような視線。そして舐めるような視線…。一体何を考えているのだろう…?
※朝のうp分はFC2のメンテナンスの為に遅れました^^;
ご心配おかけしてすみませんm(__)m お気遣いありがとうございます^^
たくさんのポチいつもありがとうございますm(__)m
にほんブログ村小説(BL) ブログランキングへにほんブログ村 BL小説