翌日も三塚は朝早くから起きていいというのに凪のためのご飯を作って慌しく出て行った。今は食べられないわけでもないから店屋物でもとってもいいし大丈夫なのに。それはダメ!といって聞いてくれないけど…。
忙しい思いをさせてまで申し訳ないのに…。
火曜日は三塚のレッスンの日でもあったけど勿論休み。今は練習している時間もないし、仕事のほうが大事だ。
そして凪といえばあんなに動揺したのが嘘のように落ち着いていた。
父親の存在が分かったからといって凪が変わる事はないんだ。そう思い考えない事にした。三塚がいてくれるから、そう思える。そして普通にしていられる。
レッスンもこなし、夜遅くにまた三塚が帰ってくる。
うん。大丈夫だ。
普通に戻った凪に三塚が残念そうなのはちょっと嬉しくて照れくさい。
大丈夫だ。
そう思ったのに…。
三塚がいないのは寂しいがちゃんと帰ってきてお帰りを言うのも違和感なくなったかなと思うようになった木曜日。またインターホンがなった。
玄関に直接出ないでインターホンに出る。
「はい、どちら様でしょうか?」
『立花です』
…やはり、か…。今日は創英一人だろうか?カメラに写っているのは一人しか見えない。
「僕は話はないので…」
『君の母親が何を考えていたか知っているか?』
どういう事だ…?
『君の母親が私の母に話しているところを聞いたんだ。その時私はもう12歳になっていたからね』
くすりと笑う声が聞こえた。
『それとも君が立花 初の隠し子だと情報を流そうか?いや、そうされたほうがかえっていいのかな…?チケットは売れ行きいいらしいけどね…』
「やめてください!」
そんなの凪は望んでいない!
『クラシック界に衝撃がはしるだろうねぇ』
「一体何が貴方は望みなんですか!」
『まずはここを開けなさい』
がちゃん!とインターホンを切って玄関に向かった。
「開けましたけど!?」
「ああ、どうも。同棲してるお相手はいないんだ?ああ、そういえば東京の新しくオープンする予定のカフェで窓越しに見かけたな…本当に偶然にだったけど」
凪は顔を思い切り顰めた。三塚の顔も創英は知っているんだ…。一度会ってるから…。
「否定しないんだ?ところで玄関?中には?」
図々しい…。
暗に三塚の事まで出して脅そうというのだろうか…?
何がいったい目的なんだ?
じろりと創英を睨んだがいやらしくにやにやと創英が締まりない笑みを浮かべている。
「………どうぞ」
何を言われるかこくりと凪は息を飲み込みリビングへと案内した。
「コーヒーでも…」
「いや、いらない。…ここにどうぞ」
ソファに座った創英が隣を指差す。
「いえ」
凪はコーヒーもいらないと言う創英に出す必要もないと一人掛けのソファの方に座り、何を言われるかと身構えた。
「母の…」
「ああ。したたかな女だったよ…九州の方からピアニストを夢見て上京してきた。…間違ってないな?」
創英が凪に確認するのに凪は頷いた。
「離婚調停している時にっていうのはこの間父が言ったな?ああ、父に普通の事は求めない方がいいぞ?なんといってもあの年でピアニストなんてしている位だ。普通の人じゃあないからな」
…創英が…普通じゃないという位じゃ本当に普通じゃないのかも…。
「一番はピアノだ。世間の事には疎いし何をどうしたらいいなんて考えるのもちょっとずれている。一応親子の情愛だけはあるらしいが。ただあるだけだ。期待するだけ無駄だ」
「……別に期待なんかしてませんけど?僕に父親はいませんから」
「そんな事を言ったってDNA鑑定でもすれば結果なんか簡単に出るだろう」
…そうかもしれないが。とりあえず凪は自分が望んでいるわけではないのだ。
「父の事はいい。その父の所に君の母親がレッスンに来ていた。大学に入れず、それでもピアニストを夢見てな。だが田舎で褒められて将来はピアニストになんて言われていい気になって何も考えずに出てきたらしいな。大学に入れなかったのは有頂天になっていたのもあるだろうし、さらに自分位弾ける人がごろごろ転がっていたのに打ちひしがれたらしい。それでもピアニストに、と諦めないで思っていたらしいが。派閥やなんだとある中でそう簡単にピアニストになんかなれるはずない。よほどじゃあなきゃな…。俺の母親も離婚調停中だったけど浮気が気に食わなかったんだろう。お前の母親を呼び出したんだ。父のいない時に。俺はドアの外で潜んでいた。うちの母親がかなり精神的にきてて人殺しでもするんじゃないかと思ってね」
創英がくすりと冷笑を浮べた。
※今日もメンテ入っててうpが遅くなりました(--;)
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