三塚には言えない…。
どうしたら…。
創英にキスされた唇をごしごしと手で拭った。何度も何度も…。気色悪い…キモチワルイ…。どうしてこんな事までされ、さらにいう事を利かなきゃないのか。
創英の思ってる事考えている事が全然分からない。惹かれるなんて言っているけど違うと思う。最初から凪を見る目に好意はなかった。
ごしごしと何度も何度も触れられた唇を拭っているとけたいがなった。みれば三塚からで、なんで三塚も今この時にかけてくるんだろう?と思わずどこかで見ていたんじゃないのか?とまで思ってしまう。
「もしもし」
『凪?お昼ちゃんと食べましたか?』
時計をちらっとみたらもう昼を過ぎていたらしい。
「今から食べる…」
声がどうしても沈んでしまう。耳に響く三塚の低く響く声が遠いように感じてしまう。
『今日はちょっと余裕出てきたので電話してみたんですけど…何かあった?』
さすがに凪の声の沈み具合に三塚が怪訝そうに聞いて来た。
「いや…三塚の仕事は順調?」
『一応。今日は少し早く帰られるかも』
早く、今すぐ帰って来て…そう言いそうになって凪は言葉を止めた。
『……凪?』
「あ、…いや…うん…待ってる…。仕事頑張って」
『……何があった?』
三塚が声のトーンを下げた。
「…なんでもないよ?」
…言えない。どうしたらいいのだろう…?
『凪?』
「なんでもないよ!…仕事途中なんだろう?僕は大丈夫だから、…三塚も頑張って」
『…早く帰りますから』
「…ん」
泣きたくなってくる。三塚に抱きついて全部をぶちまけたらどうにかなるのだろうか?…そんな事ないとは分かっていても全部言いたくなってしまう。
キスしてほしい。早く…。この唇に残っている感触を消したい。色を含んでいないと分かっていても好きでもない人からのキスは嫌悪でしかない。
もう一度仕事がんばって、と小さく震えそうな声を我慢して口に出して電話を切った。
絶対何かあったと三塚は気付いたはず。
どうしたらいい?来週の月曜までって…。
三塚にちゃんと食べたか、と確認されたので昼の分を食べようとのろのろと動き出す。機械的に動き食事を取った。
大丈夫、ほら三塚の作ってくれた物は食べられる。寂しくはあっても三塚が忙しい中でも凪の事を思って作ってくれた物だから…。
別れろと言われて…別れられるはずはないのに…三塚と別れたら凪は壊れてしまう。でも…三塚の先の事を考えれば創英は何をするのか分からない。それ位目の奥に暗い影が宿っていた。凪を凝視する目にも三塚との事を指示する時もそこに冷笑が浮かんでいた。
雰囲気が蔑んだような荒んだ感じ。投げやりのような…。
初めて会った時も嫌だ、と拒否を起こしたがやっぱりそれは変わらない。どうしても凪は創英が苦手だ。
でも…今日の話を聞いて…。自分の母親と浮気相手だった凪の母親との会話と…そして知ったであろう自分の境遇を思えば創英も精神を病んでいるのかもしれない。
…もし自分がその立場だったら…?
人なんて信じられないだろう。凪は母の話を聞いてもさして衝撃は受けなかった。ずっと自分は母の身代わり人形なのだと思っていたからやはり、と思っただけだ。そこに金まで絡んでいたのには眉根を寄せてしまうことだが…。その初氏からの金で自分は今があるんだ。
音大出て、ピアノがあって家があって…。
全部引き払おうか…?何もかも全部。…ただそうしても凪に出来る事はピアノだけなんだ。そのピアノが出来るのも初氏がいたから…。母の執念ともいえるピアニストへの夢はその本人がいなくなってからでさえもこうして凪を苛めてくるのか…。
そんな凪に唯一救いの道を指し示してくれたのは三塚だけだ。
凪の事を考え、大事にしてくれるのも三塚だけだ…。
父だと言いながらも初氏は凪に触れもしなかったのだ。優しく包んでくれるのは三塚だけ…。守ってくれるのも大事にしてくれるのも…。
そんな三塚が凪だって一番大事なんだ。
創英なんかに三塚の仕事の邪魔をされたくはない。
三塚が大事なんだ…。自分なんかよりもずっと。だって三塚がいなかったら凪は凪じゃなくなってしまうんだから。ピアノもなにもかも…。
抱きつきたい。キスしたい。…腕に抱いて欲しい…。
凪は自分の体を抱きしめた。こんなに欲しいと思うのは三塚だけ。
どうしてたった一人の人をこんなに盲目に好きになれるのだろう?
…創英にもそんな存在があったら変われたのだろうか?凪が変われたように…。
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