三塚は何も問わなかった。
あまりゆっくり話してる時間もないというのもあるが…。
朝は早いし、帰りは遅い。
でも…何故何も聞かないのだろう?
…聞かれても困るけれど、聞かれないのも気になる。
無理にでも聞き出してくれて凪を閉じ込めておいてくれればいいのに…、そんな事まで思ってしまう。
別れておけなんて言われたって…別れたにしたってもう凪には三塚しかいないのだから意味などない。
日曜日も三塚は仕事でおらず、そんな中凪は無心でピアノの練習をしていた。自宅の電話が鳴って出ると相手は立花 創英だった。
『別れたか?』
「いいえ。でも僕がそちらに行くならばそういう事になるでしょう」
『どうせ男同士じゃあ、な!』
はっ、と電話口で笑われた。いくらでも笑えばいい。凪にとっては三塚はそんな簡単な存在じゃないんだ。
きっとこの人は人を本気で愛する事を知らないからそんな風に思うのだろう。
『……父が…楽しみにしている』
「僕は別に父の存在を求めてはいない。金銭の部分には感謝はするけど…知らなかった事だった。あなたが三塚に…と言うからいう事を聞くだけであって父だからいくわけじゃない。僕に必要なのは彼だけだ」
『うるさいっ!父が望んでいるのに!立花の血を持っているくせにっ!』
創英が激高した声を上げた。
…創英は、立花の…初氏の血が欲しいのだろうか…?自分がないから…?
凪はいらない…。やれるものなら抜いてやるのに…。
『とにかく明日行く!』
がちゃんと電話が切れ、凪は静かに受話器を戻した。
そして何事もなかったようにピアノの練習に向かった。
「明日から…行く?」
帰ってきた三塚が着替えをしながら凪に聞いて来た。
「行く」
「行っても…電話してもいいですよね?」
「一人の時なら…多分…あ、でも……」
声を聞いたら会いたくなってしまう。
「会いたくなる?」
やっぱり三塚は凪が会うつもりがない事に気付いているんだ…。
「なぜ…何も聞かない…?」
「だって凪がもう決めてるって顔してるから。わりと凪っていう事きいてくれないですからね。無理言ったりすると俺の手を振りほどいてでも行ってしまいそうだ。それなら…凪が去っても俺が追いかければいい事ですから。そうしようかな、と思って。ただ今は俺も忙しすぎて自由が利かないというのが苛立たしいんですけど。そうじゃなかったら放置してません」
「そうかな…?案外三塚はそんなに僕の事……」
三塚が弾かれたように凪を見てそして腕を掴んだ。
その手がわなわなと震えている。ぎゅっと腕が鬱血しそうな位に三塚の掴んだ手の力が強かった。
「……三塚…」
凪の顔が歪んだ。そして三塚の首にぶら下がる。
「離れてなどやらないって言ったでしょう」
「…………ん」
泣いてしまいそうだ。
「どうして一人で決めちゃうかな…コンサート前の大事な時期なのに…。食べられなくなったらどうするんです?」
「…一週間位なら平気だ」
「凪…俺のいるカフェの住所知ってますね?来れるようなら来て?あと俺も東京にマンション借りますから。それも住所教えておきます」
「……うん……」
「ぎゅうっとさらに腕に力をこめて凪は三塚にぶら下がった。
「俺のただ一人の人ですからね…何があっても離しません。カフェがオープンする間までですけど。そのあと迎えに行きますから」
「そんな事言わないで離さないでいてくれれば…!」
「だったら!何故凪は来週から立花の家に行く、なんて決定を告げたんです!?初めからちゃんと話して一緒に決めればいい事なのに!俺がそう言われてなんとも思わないと!?」
「違うっ……ごめん……」
三塚に迷惑かけたくなかった…。重荷になどなりたくなかった。
三塚が凪の身体を抱き上げベッドに運ぶ。
「身体中に刻んであげます。キツくね。消えない位に」
「し、てっ!いっぱい!」
ずっと消えないような痕を刻んで欲しい…。自分が選んだことなのに…。三塚は何も言わないでそれを受け入れてくれ、そして動けない凪の為に動いてくれようとしている。
でも創英に邪魔されたら…?三塚の妨げになるような事をされたら…?
電話でもそうだが創英が何を考えているかなんて凪には全然分からないのだ。
でもそんな事考えるのはあとでいい!
今は三塚を感じるほうが先だ。
「世話してくれるって…言ったのに……っ」
「それを投げ出していく人本人が何言うんですか!」
そうなんだけど…!
自分が支離滅裂にぐちゃぐちゃになっていた。
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