シャワーを浴びてベッドに入り三塚に電話しようかと思ったらちょうど電話が鳴った。
「もしもしっ」
『凪?何もない?』
「ないよ…」
いい声だ…。低くて響く声…。安心する。
「三塚…」
『うん?なんです?……寂しい?』
「ん……」
『そういえば食事は!?ちゃんと食べた』
「……ちゃんとは…無理…。ちょっとだけだ…」
はぁ、と電話の向こうから溜息が聞こえる。
『…本当に立花 創英とは何もない?』
「ないよ。……僕も自分の事病んでると思ってたけど…三塚に依存してるし…でもなんか、ね…色々…」
『凪…少しずつ話して?』
「う、ん……あ、三塚は今どこにいる…?」
『指輪買ったダチいただろ。そいつんとこ。マンションは明日から。今日はあいつは飲み会で遅くなるって言ってたし俺一人だから少しゆっくり話できる』
「うん…」
いつもだったら電車に揺られている時間だろうけどその分の時間が空くから話が出来るのか…。
「三塚は?順調?」
『ああ。俺の事より凪が心配だ』
「今のとこ大丈夫…。今日は立花 初にレッスン見てもらったんだ…。色々注意受けた」
『……はぁ?凪で注意?…こえぇなピアニスト…。俺なんか全然弾いてないからどうなってるんだか…』
やれやれと三塚が肩を竦めている様子が目に浮かんでしまって笑ってしまう。
『…お父さん…って感じ?』
「ううん。全然。どうしたって僕にとってはピアニストの立花 初にしか見えない。…でもなんか…立花 創英の方が…」
さっき言われた事を少しずつ三塚に話す。
なんで一緒にいた時は話せなかったのに電話でなんかこうして話しているんだろう…?
自分が冷静になっているからだろうか?
いや、一緒にいる時は話なんかよりもくっ付いてたくてそれどこじゃなかった気が…。
状況も分からず三塚の邪魔をすると言わんばかりに脅されて、というのもあったからかもだが…。
『立花 創英ってファザコン?』
「………そんな一言で…」
凪のたどたどしい説明を聞いて三塚が一刀に斬る。
『凪を呼んだのも父親の為?』
「どうもよく分からないんだけど…。僕の存在を気に入っているわけじゃなさそうではある」
『……凪の事が欲しいんじゃない?』
「それはない。それに…その…男としての…その…アレが役に立たない…とか言ってたから…心配しなくても…」
『……本当に?』
「知らないけど…。冗談でもそんな事は言わない…と思う。多分…。……精神的なものだと…思う…。人の事だから知らないけど」
『…精神的って?』
「うん……聞いたんだけど…」
ベッドの中で布団に潜り込みながら話をするのがくすぐったい。
そこで今日言われた事や聞いた事など話があっちに飛んだりそっちに行ったりしながら話を三塚が根気よく聞いてくれる。他人の家のこんな事聞いても仕方ないだろうに三塚は質問してきたりしてちゃんと聞いてくれている。
『……そんな事情が…聞けばまぁ、同情しないわけでもないですけど、だからといって凪を取られるのに納得はできませんね!言ってはなんですけど、凪が望んでるならだけど、そうじゃないのに…。凪?どうしてそんな言いなりになってるんです?』
「え?ああ……と…」
肝心の脅された…とは、三塚の為だったとは言えない。
『そこは言わないんだ?』
「…うん…言わない」
はぁ、とまた三塚が溜息を吐き出す。
『なんとなく分かりますけどね』
「…………」
察しのいい三塚ならそうかも、と凪は納得するけれど三塚はそれ以上無理に聞きだす事もしないらしい。
『指輪…ちゃんとしてる?』
「してるよ?勿論…創英にも言われたけど、初氏にも聞かれた。紹介してもらえる日が来るのかな?って言われた…」
『それで?凪はなんて?』
「出来る日が来れば…って。だって…初氏は父として、という意味だったと思う。僕は全然…そうは思えないから」
『凪も頑なになっていない?父親はいない、いらない、って。お母さんの事情はそうでもお父さんであるのは創英が聞いた話の内容だと確かなようだし…。凪……なるべく早く決めて帰って来てください。……ホント…もどかしくて心配でいてもたってもいられない。今だってこんな電話してる位なら連れ戻しに行きたい位です』
そんな事言われたら泣きたくなってくる。我慢してたのに…。
自分から離れるって決めたのに…。
ぐっと胸が苦しくなって声が詰まってしまう。
「……っ」
『凪…?』
来て、って言いたくなる…。
「早く…あいた…い…」
自分から三塚の手を離して出てきたのに自分が弱音を吐いている。
『うん…。凪、頑張って。あ、でももう無理って時はすぐ電話。そうしたら仕事を放ってでも行きますから』
「うん…」
三塚には見えないだろうけれど小さく何度も布団の中で頷いた。
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