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トロイメライ 131

 金曜日は三塚のプロデュースしたカフェがオープンで土曜日は凪はリハ。そして日曜が本番。
 日曜のコンサートには来てくれるだろうから間違いなく会えるだろう。でもその前は全然読めない。
 火曜日もほとんど一日中レッスンしてもらい、そして凪の食欲はさらに減退する。
 三塚のケーキが食べたいな…食事も三塚がいて一緒に…がいいな、とピアノから離れればつい三塚の事だけを思ってしまう。

 もう寝て日が明ければ水曜日でまる二日も会っていない事になるんだ。
 午前から夕方までぶっ通しでレッスン。どうにも初氏は夢中になると止まらない性質なのだろう。凪もべつにそれで困るという事もないのでいいが…。

 あっという間に一日が終わってしまう。レッスンは本当に勉強になってためになってありがたいと思う。父として…はやっぱりどうも見られないけれど、ピアニストとして尊敬する。深い音…。いつか凪もそんな音が出せるようになるのだろうか?
 三塚には凪が頑なではないのか、と言われたが、どうなのだろう?

 やっぱりレッスン中はピアニストの立花 初だと思う。それを離れたら父、なんて凪には出来ないと思う。だって簡単に会う事ができる人でもなかったのに急に父と言われても凪にとっては困るだけだ。
 食事の時間はやはり少しだけで凪はすぐに箸を置いた。
 それをちらっと創英が見て眉を顰める。

 「あれ?そういえば創英、講演で出かけるのいつって言ってた?」
 「明日です」
 出かける!?いないのか?
 「あの!僕も…明日打ち合わせが」
 「え?凪くんも?…でも凪くんは帰ってくるだろう?創英は泊まりだったな?」

 …創英は泊まり!ゆっくりは三塚も仕事あるから無理だろうけど少しは会える…。
 顔に出ないようにしながらまた箸を取って少し夕食をつまんだ。顔色が悪かったら三塚が心配する。
 明日会えるかも、それだけで少しばかり食べる気が増すんだからなんとも手軽だ。
 それにしても気軽に初氏は帰ってくる、なんていうけれど…。凪がここにいるのが当然のような態度だが、本来凪の家は別なのに。

 いや、でも今はそれはどうでもいい。凪の心が三塚に少しでも会えると喜んでいる。自分で離れると言ってもそれは無理なんだ。
 創英が何か言ってくるかと部屋に戻ってから身構え待っていたが講演の用意で忙しいのか来る事はなかったのに拍子抜けしてしまいそうな位だ。別れろ、とまで言った位なのに…。それとも凪がここにいれば問題じゃないのだろうか?

 …とにかく創英が何を考えているのか凪に計り知る事は出来ない。
 いや、創英本人ももしかしたら凪の事に戸惑っているのかも…。さっきも食事の時に箸を置いたら咎めるように凪を見た。それは凪の自己管理が悪いという意味もあるのだろうが、憎悪だけであったなら放置してていいはずだ。放っておけば勝手に衰弱していくのに…。

 昨日は三塚が電話をくれたから今日は凪からかけようと電機を消してベッドに入り電話をとった。
 『もしもし』
 「三塚?もう…大丈夫?」
 『ええ。今丁度マンションに付いたとこです。何もないですけどね』
 「布団とかベッドは?」
 『布団は実家から送ってもらって管理人さんに預かってもらってたのでかろうじてありますよ。とりあえずオープンまでは忙しいからこのままですね』

 「…そっか……」
 三塚のマンション…。今行けるなら行きたい。そんなに遠くもないのに。
 『今日は?何かありました?』
 「何もないよ、レッスンで一日終わった。あ!そうだ!明日!……忙しい…よな…?ちょっとだけでも…時間ない…?」
 『……外出られる?』
 「ん……創英が…講演で出かけるらしいんだ。…だから…。午後からレッスンしてもらうしちょっとだけだけど…」
三塚だって仕事で忙しいはず…。

 『お昼休みなら』
 「う、ん……。ごめん…忙しいのに…」
 『馬鹿ですね。何言うんですか。俺だって会いたいに決まってるでしょうが!そんな事言うなら帰しませんよ?』
 本当はそれでもいいなんて…思ってる。

 『…でもレッスン…はいい感じ?』
 「ん!まだまだ未熟だって思い知らされる」
 『……ピアニストってゴールがないですからねぇ…でも凪が満足そうでそこはよかった』
 「ああ…そこだけは感謝する。本当に一つ一つの音譜の意味みたいなのまで…全部教えられるようなんだ」
 『俺には理解できない世界です』
 くくっと三塚が低い声で笑っている。

 『今日はちゃんと食べた?』
 「昨日よりはちょっと。明日…三塚に会えるかな、と思って」
 『立花 創英の方には何も言われなかった?』
 「うん何も。今日は全然話も何もしてない」
 『そうなんだ?』
 うーん?と三塚が呻り声を上げていた。
 
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