『なんなんでしょうね…?まぁいいですけど…。あとちょっとだけ待ってね』
あとちょっとだけ待つって…待つのはいいけど…。
『じゃ今日は凪は早く寝てください。昨日話してて遅くなったから』
「……三塚もだよね…ゴメン」
ホント考え無しだ。三塚は毎日忙しくて大変なのに。
『電車の移動がない分楽ではありますけど…。困るのは凪が足りない事だな…。キスしたい』
「そんな…」
言われたら凪だって…。
手だって体温だって…と思い出してじんと体が熱くなってくる。
『痕…まだ残ってる?』
「…少し」
『……凪…』
三塚の声にぞくっとした。
「だ、ダメっ!」
『したくなる?俺の声好きでしょ?電話でも効果あるのかな?テレフォンセックスします?』
「し、しない!だって…」
『後ろに欲しくなる?…ですよね。俺も欲しい…』
艶めいた三塚の声にぞくりと身体が反応してしまう。
「あ、あ、あ、明日っ!行く!行く前にメールとかする!」
『俺からもいい時間とか入れますね』
くっくっと三塚が笑っているけれど凪の顔が真っ赤になっている。誰に見られているわけじゃないけど恥かしい。
『じゃ明日』
「……うん。お休み」
『お休み。いい夢みてください。ああ、エロい夢でもいいですよ?』
「みない!」
三塚が笑っている。そんな事言われたら三塚の全部を思い出してしまうのに。声も匂いも体温も汗もキスも。
まだたった二日なのにもう会ったのが大分遠い前のような気がしてしまう。
きっとずっと毎日一緒にいたから…だ。日中まで一緒だったわけでもないのに。
三塚が笑ってくれたのが嬉しいけれど、切れた電話が寂しい。自分で招いている事だが、なんで、と八つ当たりしたくなってくる。
でも明日は…。
凪は携帯を持ったまま指輪も擦り、そして眠りについた。
朝起きて着替えを済ませ階下に下りるとすでに創英はスーツを着てリビングで優雅にコーヒーを飲んでいた所だった。初氏はまだ起きていないらしい。
「今日は会いに行くんだ?」
くっと鼻で笑われた。
「………」
「恋だの愛だのなんて邪魔にしかならないのに」
「そんな事ない!僕は…ダメなんだ…いてくれないと…僕は欠陥人間だから…いてくれないと…壊れる…」
創英がコーヒーを手に持ちながらぎ、っと凪を睨む。
「それなら何故ここにいる?」
お前が言ったからだろう!と怒鳴りたくなったのをぐっと我慢した。
「確かあの店は金曜日オープンだったな。連れていってやろうか?」
「……いい」
凪は頭を横に振った。
「…食事を取らないのは抗議のつもりか?」
「違う。……本当に喉を通らないんだ…。食べてももどしてしまう…。それでも今回は全然ましだ…。あなたが言うように管理がなってない、と言われればそれまでなんだけど…いつもは二週間ほぼ何も食べられない状態になるから…前の地元でコンサートの時はコンサートを終えた途端に倒れて…入院した」
ぎ、っとさらにまた創英の眉間のしわが深くなる。
「彼が…来てくれてからはそんなに食欲が落ちる事ももどすこともなくなったけど…」
は、っと創英が笑った。
「私も病んでるがお前も病んでいるんだな?同類か?血も繋がっていないのにな!」
……病んでいる自覚あったんだ…と穿った目で創英を見た。
「あなたにも…大事な存在が出来れば分かるのに…。別れるなんて無理だ。僕の全部は彼を求めているんだから…。男とか女だから…そんな問題じゃない」
「甘い!そんなのが何の役に立つ!?」
「役に立つとかそういう問題じゃない!いないとダメなんだ。壊れてしまう!」
凪は感情をむき出しにして声を荒たげた。
「…私にはそんな存在など不必要だ」
コーヒーカップをテーブルのソーサーに戻し、すくっと創英が立ち上がった。そして旅行鞄を手に取ると凪の前に立ち、空いた手で凪の頬に撫でるように触れた。
「他人だぞ?血が繋がっていてさえも愛情などないのに他人にそれが?」
「…あなただって初氏を慕っているでしょう?僕との愛情の種類は違うかもしれない。でもだからここにいる。違うんですか?」
「さぁ?父の方が私を自由にしてくれたからいるだけだけど?」
「でもそれなら今ではあなたはここを出て一人でも暮らせるはずだ。自由に。それをしないんだから…」
「うるさい!」
「僕をここに呼んだのも!僕の事なんてあなたは気に入らないのに初氏が言ったからでしょう!?」
「……だから?じゃあその男がいないとだめだという証拠でもあるのか?そんな指輪なんかじゃなくてな。その男もそうだとは限らないだろう?無償の愛なんてあるはずない」
侮蔑の視線で凪を見下ろすように睨みそして創英は出かけていった。
証拠なんて…。そんな事を求める方が間違っている。
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