「んん~~~……」
おいしい!と凪が一口頬張り顔を蕩けさせると三塚がくっくっと笑っている。
なんか会ってなかったからか、外だからかドキドキが大きい気がする。
「チョコケーキとチーズケーキはここで出す予定のものです」
「チーズケーキおいしい。前に作ったあのフワフワのやつからまたちょっと変わってる」
「そう。ソース上にかけるためにね改良しました」
「うん。フランボワーズの酸味と甘みがおいしいっ。見た目もころんとしてて可愛いな!」
「……そんな事言いながら子供の様に目を輝かせてる凪の方可愛いですけど」
「…可愛いはあんまり…恥かしいんだけど。あ、チョコも美味しい!濃厚なのにパサついてない!ちょっと苦味あるけど柔らかめの生クリームが…おいしい」
「よかったです」
やっぱり幸せだ、と思ってしまう。
三塚がメニューを手にとって凪に見せた。写真入りでとてもおいしそうなものがずらりと並んでいる。
「これ全部三塚の?」
「そう」
「……ここくれば食べられるんだ…。あ、でもやっぱ男では…恥かしいな」
「あのね!いつでも作ってあげられるでしょう!」
「…そうだけど…」
「凪」
三塚がメニュー表を手に持って人の目から顔を隠すように持ってちょい、と人差し指で凪を呼んだのでなんだろう?と顔を近づけたらキスされ、口端を舐められた。
「み、み、…つづかっ」
「チョコついてた」
しれっとなんでもない様子で三塚が離れるけど、凪は耳まで熱くなってくる。だって!お店で…っ。
ちらっと後ろを振り返るとスタッフ全員に凝視されていた。
「み、み、…見られて…?」
「気にしない気にしない」
するに決まってるだろ!
「ごちそうさまでした。おいしかった」
「よかったです。…いいけどちゃんと食事食べてくださいよ?」
「だって…おいしいって思えないし…」
「あと二、三日だけですから我慢して食べて?じゃないと体力もたなくなりますからね?コンサートもですけど、その後、が…」
三塚が耳を撫でるような声を響かせてきて凪は体を竦ませた。ずくりと身体が痺れそうだ。
「ね?」
凪は小さく頷く。そんな色を匂わす声に体が疼いてきそうになってどうするんだよ!と三塚を睨んだ。
「だめですよ。そんな色っぽい顔しちゃ」
三塚が苦笑したので凪はむっとした。
「やっぱ三塚の方が余裕だ!」
「…余裕なんてないです。ちゃんと分からせてあげますからね。全部終わった後に」
嘘だ。絶対余裕だと思う!
「…………帰る!」
いつまでもここにいたら三塚の迷惑なはず…。帰りたくないけど…。
「今日もレッスン?」
「ん…。帰ったらしてもらえる…はず」
「頑張って。楽しみにしてますから」
「うん」
「夜に…また電話しますね」
「…ん」
三塚の指に光る指輪を確認してから凪は小さく頷いた。
「会計…」
「いいですよ。賄いって言ったでしょ」
「……本当に?……いいのかな…?あの…ごちそうさま。やっぱり三塚の作ったのが…美味しいと思う」
「それでいいんですけどね…。離れた時は心配で…。今だけだけですけどね。今回のが終わったら二度ともう凪から離れるのなしですから」
「…うん…。でも…離れて…改めて大事だって…分かった」
「あ、それは確かにね。俺も凪が手から離れても離さないと思えたのは収穫です。今まで凪以外で別れ話を言われてもあ、そう位で終了でしたけど、やっぱり凪だけはそうはなりませんでしたからね。もっとも、指輪で繋がっているんですから当たり前ですけどね」
「ん…」
そう…。これがあったから…。
店の前まで送り出してくれた三塚と別れがたくてごねたくなる気持ちを抑え背を向けた。三塚の補充時間は終わりだ。あとはピアニストとしての高比良 凪にならなければならない。
凪は顔を上げ三塚の顔を見てそして心を決めて店を後にした。
帰ってからもレッスン。それは夜まで続き、金曜日も一日レッスンだった。創英は帰って来ていたけれどさすがにコンサート前の追い込みを知っているのか凪を揺さぶるような事も何も言ってこなかった。
そこが不思議だった。
どうやらピアニスト、というそこは創英にとっても特別な事らしい。高比良 凪個人は気に入らなくとも、ピアニスト高比良 凪の邪魔はする気はないらしい。
食事も凪が食べたくなさそうにしているときちんと食え、とぼそりと注意されるのだ。
三塚からも言われたし一応頑張って食べるようにはしていた。
とてもおいしいとは言える状態ではなかったけれど、それでも三塚とまた一緒にいられる時間が近づいてきてる、そのためだと無理にでも食べた。
それだけでも大分成長しただろう、と自分で褒めてみた。
※60万hitのお祝いありがとうございます~^^
とりあえず書き書きをがんばります~(><)
たくさんのポチいつもありがとうございますm(__)m
にほんブログ村小説(BL) ブログランキングへにほんブログ村 BL小説