いい気分でリハも打ち合わせも全部終了して創英の運転する車に乗り込んだ。さすがの高級車だ。家にお手伝いさんは来てるけど、家もピアノも車も立派だがお手伝いさん以外に付き人がいるわけでもないし、運転手もいないらしく創英はいつも自分で車を運転している。
そういえば凪も免許を取ろう!と思ったのだった。
コンサート終わったら考えようと顔が緩む。三塚に内緒で取りにいくんだ。
「あ、そういえば…明日お宅を出て行きます」
運転する創英がちらっと助手席に座る凪に視線を向けけてくる。調律をやり直した分もう夜も遅い時間になっていた。
「あの…別にバラされても平気なので」
ふん、と創英に鼻を鳴らされた。
「…初氏はやっぱり僕はピアニストの立花 初にしか思えない…。その息子さんといったらあなただけだと思いますから…僕は今までどおりでいいです。あ、ただ…都合がよすぎだと思うけれど…レッスンはしてほしい…と」
「それは父に頼む所だろう。私は関係ない」
そうだけど…。連れてきたのが創英だから、一応と思ったのだが…。それにしても出て行くと言った所は無視か…。やっぱり何を考えているのか分からない。そういえば初氏が創英の事情を知っていそうだ、と言った方がいいのだろうか…?……いや、言わない方がいいか…。
「…今日はありがとうございました」
「………誰が知らなくともお前は立花 初の血を引いているんだ。父に恥じない演奏をしろ。まして師事する事にしたのなら余計にだ」
「……はい」
この人はいつもそう思いながら演奏しているのだろうか…?だから几帳面な四角い演奏なのだろうか?…いや、元々の性格かもしれないけど。
でも…そんな事言われるとは思ってもみなかった。今日だってついてきてくれて凪の為に動いてくれて…。内情を知っていればだけど、誰も真実を知らないのにそこまで動いてくれる必要もないはず…。だからこそ几帳面だ、とも思えなくないけど。
それ以上何も会話もなく立花の家まで帰った。
「どうだった?」
「まぁ、あんなものでしょう」
帰ると玄関まで初氏が心配そうにしていて、待ち構えるように出てきて聞いて来たのに創英が答えていた。
「そうか。凪くん!明日楽しみにしているね」
「……ありがとうございます」
創英はさっさと広い吹き抜けのある階段から二階に上がっていってしまう。
「あの…僕は明日には…お家をお暇させていただきますね…その…迎えに来てくれるので…」
ほんの少し顔を赤らめながら初氏に告げた。
「ん?ああ!凪くんのいい人?そっか…」
しゅんとする初氏は本当に子供のような人だと思ってしまう。表情は見えても何を考えているのか分からない創英とまったく違う。創英とは血の繋がりもないのだから似ないのだろうか…?
「凪くん…お父さんだとは…思ってくれない…?」
初氏が窺う様に凪を見て口を開き、それに対して凪は小さく首を振った。
「すみません…やはり僕にとってあなたはピアニストの立花 初です。息子さんは創英さん一人だと…。ただ、これからもレッスンはお願いしたいのですが…都合がよすぎるでしょうか…?」
「いや!全然!私はもうお年だもんで、あまりステージも入れてないから暇なのだよ。凪くんが私でいいなら」
「今回ものすごく勉強させていただきました。感謝しています。親子は…無理ですが…そのおこがましいし我儘ですが…師弟では…だめでしょうか?」
「いいよ!いいよ!」
にこにこと無邪気に初氏が笑っている。今はレッスンもほとんどしないという初氏だが…特別扱いは嬉しい。初氏にしてみたら息子だから特別なのかもしれないが。
「ああ。レッスンは息子だから、じゃないよ?いくら息子だって私がレッスンしたくないと思ったら引き受けないから」
「え…?そう…なんです…か?」
「当たり前でしょう」
凪位ぺーぺーなら生徒さんも来るもの拒まずだろうが、確かに重鎮ともなればそうだな、と納得する。するけど、それくらい認めてもらったという事でもあるわけでそこは嬉しい。
「ありがとうございます!」
「携帯の番号聞いてなかったね。いつでも何かあった時は連絡して」
「……ありがとうございます」
ここに住んでいた時間は不思議は時間だった。ずっと誰も血縁などいないと思ったのに…。
いや…そんな事を思うという事は凪の中では初氏を父と認めていたのだろうか?
でもそれは言わなくていい…。あくまでここは立花 初、創英親子の空間だ。凪のいる所は別にあるのだから。
「一週間…レッスンありがとうございました。これからもぞうぞよろしくお願い致します」
「はい。よろしくね。高比良くん。…明日期待しているよ」
凪くん、と言っていた初氏が高比良と呼んだ。
そして凪はもう一度初氏に向かって深く深く頭を下げた。
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