リストの曲。超絶技巧が駆使された曲ばかりだ。
リストは指が6本あるんじゃないかと言われた位早弾きで曲も華やか。
でも勿論そればかりじゃない…。
それは弾くピアニストも同じだ。
巡礼の年 「スイス」「イタリア」「三年」の中から曲を抜粋、よく弾かれる曲を選んだ。
早弾き…うん、指がよく動いている。滑らないし音もちゃんと入っている。綺麗に透明感あるように聴こえているだろうか?情景が目に見えるように?
泉だったり谷だったり…長調のあかるい曲調は軽快に。短調は重厚に。
そして注意する初氏の声が聞こえてきそうだ。テクニックだけで弾くな、と…。自分はそれだけだったんだ。だから足りなかった。
誰にでも、作曲者だけじゃない、演ずる側だけでもない、聴きに来てくれている人だって誰でも楽に生きている人なんていないんだ。
人は皆なにか抱え込んでいる。そして生きていくのに一人では生きていけない。凪は自分が一人で生きている気になっていたんだ。そして父じゃない、と言ったってその父がいなかったら凪は生まれてきていないのだ。
色々な事を考え、そして思う。
自分だけが…と被害妄想だったのかもしれない。自分が望んだのじゃないと。でも違った…。そして創英の事も…もしかしたら創英の方がより苦しんだのかもしれない。でもそれを分かる事が出きるのは凪しかいないかもしれない。凪に最初の嫌悪感がなくなったように創英にも憎悪はなくなったのだろうか?
だからと言って好きではないし苦手だ。…ああ、創英も同じなのかもしれない。憎しみはなくなっても好意はない。それでもピアニストという位置にきた凪に対しては認めてくれているんだ。そして初氏の血を持っている凪を羨んでいるのだ…。きっと…。
凪にとってはいらないもので創英にとっては喉から手が出るほど欲しい物に感じているのかもしれない。
それでも大人だから…創英はそれを押さえ込んで呑み込んでいるのだろう、とも思う。
そして初めて会った時から互いにその血の因縁を感じたのかもしれない。
……ここまでヘビーな悩みを持っている人はきっと少ないとは思うけれど、人の悩みに大きい小さいはないはず。
実際凪だって父親の存在の事より三塚の事で悩んでいたくらいだ。些細な事でも人は悩む。そして乗り越えていくんだ。決して一人じゃない。
手を差し伸べて一緒に歩いてくれる存在が出来ただけでこんなに人は変われるのだろうか?
音が…。
綺麗な旋律の時は心嬉しい事を思いだし、暗い時は苦しい時を思い出し、嬉しい時、悲しい時、自分の中の気持ちをこめる。指先に。
聴こえるだろうか?
こんな風に弾ける事が嬉しい。自分を出せるのが嬉しい。
頭の中に楽譜はある。でも指先が勝手に音を奏で紡ぎ出していく。
以前はステージでも孤独だった。どこでも、だ。
それが今は後ろに三塚が立って凪の背中を支えてくれているのが分かる。そしてお客さんも…。息を呑み込んで聴き入ってくれているのが分かる。受け止めて欲しい凪の気持ちを感じ取ってくれている。
ステージ上は熱い。でもただ熱いだけでなく今は体の芯から熱くこみ上げてくるものがあった。それを込めるんだ。このステージに。
わざわざ高いお金を出して自分の演奏を聴きに来てくれた人に感謝する。ここまで手伝ってくれたスタッフにも。スポンサーや協賛をいただいた会社も、指導してくれた先生、創英でさえも凪の為に動いてくれる。
……そしてここまでこられたのも母親のおかげだ、と思う事が初めてできた。
今までは義務感だけだったのかもしれない。母親の呪縛にとらわれて周りも自分自身も見えていなかった。
三塚に言われた通り、ピアノが好きじゃなかったら続ける事はできなかったはずだ。
ピアノを弾くのは…何で好きだった?
上手に弾けた時の母親の笑った顔が好きだったんだ。だから続けられた。そんな事も忘れていたんだ…。
今までの事が走馬灯の様に脳裏に浮かぶ。
ああ、足りない…。もっと弾きたい。
練習の時にはないこの気持ちの高揚感にだからこそステージに向かうのだと思う。これを知ったらステージの世界を離れる事など出来ない。もっと聴いて欲しい。感じて欲しい。
だからこそ倒れても、這ってでもステージに向かうんだ。
スポットライトの下で凪は一人だ。
だけど違う…。
今はそう思う事ができた。…出来るようになった。
色々な自分の思いが交錯する中、凪は演奏を終えた。
もう自分がどんな風に弾いたかなんて覚えていない位で、最後の一音を弾き終え、鍵盤から手を上げた時にはっとした。
一人よがりの自己陶酔の音になっていなかっただろうか…?ちゃんと弾けてた…?
しんと静まり返った会場に凪はこくりと生唾を飲み込んだ。
※ 坂崎 若さんからイラストいただきました~^^
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カッコよすぎなんすけど(笑)いえ、カッコイイでいいはずなんですけどねぇ~ww
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