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熱吐息 carezzando~愛情をこめて~4

 女じゃないのに服買ってもらって…。
 瑞希は顔を俯けた。
 今までだったら間違ったって着る事もなかったような物。
 どっかで飯食ってこうと連れて行かれたのもやはりファミレスとかでもなくて。
 ファミレスにだって瑞希はほとんど行った事などないのに、急にランクがグレードアップしすぎている。
 別に何もいらないのに。
 ただ宗が傍にいてくれればいいだけなのに。
 街の喧騒の中に置いてきぼりになった気分になってくる。
 自分が異質で間違って紛れ込んでしまって迷子になっているみたいだ。
 前を歩く宗の背中が遠い感じがする。
 身分の違いなんて今の世にないけれど、間違いなくそんな感じ。
 「瑞希…?疲れたか…?」
 宗が歩みの遅くなった瑞希を振り返って待ってくれる。
 こういう所が好きだ。
 強引なんだけどちゃんと見てくれている所が。
 宗の隣に立った。
 隣に立っても大丈夫…?
 「…俺が勝手に浮かれてるだけだから瑞希は気にするな」
 「…浮かれてる?」
 「だってデートだろ?」
 宗が照れ隠しなのかむっと口を引き結んだのに瑞希は思わず笑みが広がった。
 「……デート…なんだ…俺、初めてだ…」
 宗に言われて瑞希まで照れくさくなった。
 でも男同士だから手を繋ぐことだって出来やしないのに。
 本当はもっとくっついてたい。
 手を離したら宗がどこかに行ってしまいそうに思えて不安で仕方ないのだ。特にこんなに人の溢れるところだと歩いているだけでも宗が普通の人と違うのが嫌でも目に入ってくる。
 宗とすれ違う人が宗に視線を向ける。
 男は憧憬、女は獲物を見るように。
 でも宗はきっとそんなのいつもの事なのだろう。全然気にした様子はない。
 その宗が歩きながらじっと瑞希を見た。
 「…何?」
 「……帰るか?」
 「………うん」
 その方が嬉しい。帰ればきっと宗は瑞希を離さない。
 「じゃ、スーパー寄って帰ろう」
 「…ん」
 きっとスーパーなんて宗は行った事もなかったんだろうけれど今では普通に行くしちゃんとどこに何があって、必要なのがどれかも分かっている。
 「……心配だ……」
 「え?何が?」
 宗がまだじっと瑞希を見てた。
 「でも泊りがけじゃなくてよかった」
 「だから、何が?」
 「新人研修。もしどこかに泊りがけだったら間違いなく心配で後追っかけてくぞ」
 「………そんなに俺に不安?」
 「ああ!絶対血迷う奴がいる」
 「……はい?」
 仕事が出来るか不安…じゃなくて?
 瑞希が首を傾げた。
 「だってお前、綺麗だもん。最近さらに磨きがかかってるし」
 「………何の事?」
 「俺以外身体触らせるなよ。ほんとは見られるのも嫌だけど…」
 「…………」
 「もうすれ違う奴も瑞希に見惚れてくし!」
 宗がイライラしたように小声で言う。
 「……それ、間違ってるけど?皆宗を見てるんでしょ?」
 「違う」
 宗、気づいてないの?
 くすっと瑞希が笑った。
 「俺なんか相手にするの宗だけだよ?どっちにしたって宗以外はどうでもいいから」
 瑞希にはもう宗だけだ。
 全部が宗だけ。
 「俺が好きなのも、俺を好きにしていいのも宗だけだから…」
 小さく宗にだけ聞こえるように囁いた。
 雑踏の中では宗の耳にさえ聞こえているだろうかという位の声だった。
 「そ、宗…?」
 宗は瑞希の腕を掴まえ、引っ張り、早歩きで歩き出すとさっさと手を上げてタクシーに瑞希を詰め、自分も乗った。運転手に場所を告げてるのはマンションだ。
 「…買い物は後。車で行けばいい」
 瑞希のミニも一緒に引越ししてきていたけど今日は電車で来ていた。
 「な、何?どうしたの?」
 宗は急に帰りたくなったらしい。
 「…っ!」
 宗が瑞希の頭を引き寄せて耳後ろにキスした。
 「あんな熱烈な告白受けたらそりゃ、もう応えないと」
 …聞こえてたんだ。
 かっと瑞希は顔を赤くして俯いた。
 「……して」
 いつでもして欲しい。
 その間は宗は自分のものだ。
 「…ダメだ。黙ってろ。我慢出来なくなる」
 宗がむっとした顔で瑞希の手を握ってきた。
 抱きしめて欲しい。
 そう思いながらタクシーがマンションに向かうのを黙って待った。
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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