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熱視線 熱情~パッション~3

 「籠もっていい?」
 怜の演奏が終わった後明羅はやっぱり頭の中に音が溢れて怜にそう聞いていた。
 「だからいい、と言ってる」
 怜が譜面台やら、蓋を片付けながら苦笑した。
 「いいが、蓋閉めるの手伝え」
 「手垢つくのやだから嫌」
 「俺が触ってもうついてる」
 「自分のだったらいいけど人のっていやでしょ」
 「お前のなら別にいい」
 明羅は恐る恐るピアノに触った。
 「…いいの?べったりついちゃうよ?」
 「…つけないくせに」
 怜は笑った。
 「…どうしてそんなに、俺…?」
 特別なの…?
 そう聞きたいがそれを自分で言うのはどうも恥かしい。
 だが怜はちゃんと明羅の言いたい事が分かったらしい。
 「なんでだろうな?俺にも分からん。それ言ったらお前だってなんで俺?」
 そうか…と明羅も頷いた。
 「そうだね」
 くすりと笑った。

 怜といると笑ったり泣いたりむっとしたりと感情の起伏が激しいと自分で思う。
 怜が明羅よりも10歳も上という事もあるかもしれない。
 甘えている、と言ってもいいかもしれない。
 親にさえ甘えるなんてしたことなかった。大体にしていないのだからしようがないという事もあるが。
 並んでいると明羅よりもずっと背が高い。
 体もひょろひょろしてる明羅とは違ってるし、腕の太さも比べ物にならない。

 そういえば昨日の朝この腕が明羅の体に巻きついていたと思い出した。
 誰かと一緒に寝るなんて学校の修学旅行とか以外では初めての事だった。
 いや、そもそも人の家に泊まるというのが初めてだった。
 それなのに普通に寝られるのに自分は意外と図太かったのかと思わず笑ってしまう。

 きっと二階堂 怜だからだ。
 知っているといえば10年前から知っている人。
 学校でだって家でだって明羅はあまり話もしないし他人に興味もない。
 それなのに怜といるともっと知りたい、話したいと欲求が出てくる。
 こんな事初めてだった。
 ピアノの事だけではない。
 緑色が好き。誕生日はもうすぐ。料理が上手。普段着はラフすぎるくらいのもの。
 そして意外と几帳面。
 広げた楽譜もちゃんと綺麗に片付ける。
 部屋も雑踏としている所など全然ない。
 洗濯物も綺麗に畳む。
 まだ三日。
 それなのにずっとこうしていたような気にさえなってくる。

 そういえば誕生日だと言っていた。
 どうしよう…?
 明羅はふと考え込んだ。
 頭には鳴り響く音。
 そして怜が弾いた明羅の作った曲。
 好きじゃなかったらきっと弾かない。少しでも怜はいい、と思ってくれたのだろうか?だったら明羅に出来る事は…。
 明羅の音が聞きたいといった怜の言葉も叶えられる。
 「あっち、籠もってくる、ね」
 「おう」
 誕生日まであと4日ある。
 頭にはずっと怜の音がなっている。
 よし、と明羅はリビングの向かいの部屋に入った。
 
 怜のラフマニのピアノソナタは明羅のもの。あの音が明羅の中に鳴り響く。
 だめだ、今はそうじゃなくて。
 パソコンに電源を入れ、シンセにも電源を入れる。
 愛の夢を唸らせたいといった怜。
 明羅も怜を唸らせたくなった。
 どう、思うかな…?
 どきどきしながらパソコンに向かった。

 昨日よりも疲れる。
 明羅は目を擦りながらリビングに出てきた。
 しんとしている。
 「怜、さん…?」
 声を出しても帰ってこない。
 「怜さん?どこ…?」
 リビングを見渡しても音も姿もない。
 外はもう暗くなりかかっている。
 明羅は慌てて寝室に向かった。
 「怜さん?…あ…」

 いた。ベッドで寝てた。
 明羅がいないとつまらないと言っていた。
 「…本当、かな…?」
 明羅も怜の横にそっと寝た。
 じっと怜の寝顔を見た。
 いた。よかった。
 そっと明羅は怜のTシャツを掴んだ。
 するとまた怜の腕が明羅の身体に回ってきた。
 「怜さん…?」
 明羅は怜の顔が近づいてきてどきりと心臓が鳴った。だが本気で寝ているらしくすぅすぅと寝息が漏れている。
 八重歯も可愛いが、寝てるのも可愛い。
 そっと明羅は怜の胸に顔を埋めた。
 もう離れられないかもしれない。
 ううん、かもじゃない。
 怜の心臓の規則正しい音が明羅の耳に響いてきて明羅も自然に目を閉じていた。
 特別。
 明羅にとってずっと追ってきた特別な人。
 でも今は追っているんじゃない。
 じゃあ何だろう…?
 そんな事を思いながら意識は沈んでいった。
 
 
 

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