〝顔色が悪い…大丈夫か?〟
光流の思考が流れ込んできて唯はぱっと体に手をかけていた光流の腕を払った。
「あ、ごめん」
光流がそれに気づいてすぐに謝ってきて唯は頭を横に小さく振った。
「ううん…こっちこそ…ごめん…」
「いや。接触されるの嫌なんだろう?それで気分悪くなったのか?顔色悪いから少しどこかで休もうか?」
唯は小さく頷く。
よろよろしながらこの間航さんに連れられていったスロープの所まで歩いて腰かける。
「…この間も具合悪くして…ここで、その…航さんに…」
「なるほど。じゃ叔父貴に電話してみるよ」
光流がそう言って携帯をとると電話した。
「ああ叔父貴?俺。今駅なんだけど、紺野が具合悪くして…ああ、うん。……で、前に叔父貴が休ませたっていうスロープんとこ。…うん、じゃ」
じっと唯は目の前に立っている光流を見つめた。
「今来るって」
その光流の言葉にほっとしてしまう。航さんと会えるんだ…。
今電車の中で聞いた犯人の言葉に頭の中がぐるぐるしそうだけれど航さんが来てくれるのなら安心できる、とほっとしてしまう。
「光流」
すぐに航さんの姿が見え、光流が手を上げてこっちだと合図している。
今日もスーツ姿で、やっぱりかっこいい…と唯はぼうっとしてしまいそうになった。
「……こんにちは…あの…この間はありがとうございます」
目の前に立った航さんに小さく頭を下げた。
「それはいいけど…。今日も具合悪くしたって?」
唯の目の前に航さんが屈んで唯の顔を覗き込んできた。
その航さんの腕に思わず唯は手を伸ばして掴んだ。
ちょっと驚いたような顔で航さんが唯を見ている。でもやっぱり航さんからは何も思っている事が流れ込んでは来ないのだ。
その掴んでいた唯の手をぽんぽんと優しく航さんが叩いて唯ははっとして手を離した。
「す、…すみません」
「いや、いいけど。気分は?気持ち悪い?」
「いえ…大丈夫です」
どうしよう…。さっきの事もこの間の事も言ってしまいたい。
縋るような目で航さんを見てしまう。
「何?何か言いたい事でもある?なんでもいいよ?」
………言えない、と唯は顔を俯けて小さく首を横に振った。
「叔父貴……キショ!」
すっかり光流の存在を忘れていた唯は光流の声にはっとした。
「どういう意味だ」
航さんが立ち上がって光流を並んで立っている。二人とも背が高くてカッコイイ。顔も似ているし確かに親戚って分かる。光流の方が柔らかな優しい感じで航さんの方が硬質な感じだ。
「誰コイツ?って感じ?紺野にはそんな話し方?キモ!」
「可愛い子にはそれなりの対応だ。お前にもしてやろうか?」
「やめてくれ!寒気がする」
光流が頭をぶんぶんと横にふりながら自分の体を抱き締め、それに唯は思わず笑ってしまった。
すると二人がぱっと唯の方に振り返る。
「うん…紺野笑った方がいいよ」
「そうだね」
二人に見られて顔を俯けた。なんか恥ずかしい気がする。
「それはいいけど、唯くん…本当に大丈夫?電車乗るたびに具合悪くするの?」
「いえ…」
そういうわけじゃない。人と接触するのは嫌だけどこの間と今日はあの犯人の声を聞いたから…と心の中で言っても仕方ない。
「さっきよりは顔色よくなってきたかな」
また航さんが唯の前にしゃがんだ。
そしてやっぱり唯は航さんに触れたくて手を伸ばそうとしてはっとその手を引っ込めた。
「……紺野、叔父貴は触っても大丈夫なの?」
光流が立ったままで唯に聞いて来た。
「……うん」
「叔父貴、紺野の手掴んで」
「?」
不思議そうにしながら航さんが膝で合わせていた唯の手にそっと触れてくるとかぁっとして顔が熱くなってくる。
「ムカツク」
光流が呟いた。
「俺なんかちょっと触っただけでも振り払われるのに」
「あ!ち、違う!そ…うじゃなくて…!」
「でも叔父貴は平気なんだろ?」
それはそうなので唯は俯いた。
だって航さんからは何も聞こえて来ないから…だから平気なんだけど…。それを説明する事はまさか出来ない。
「なんだ?」
「紺野は人との接触嫌悪症なんだって。それが叔父貴は大丈夫らしいってこと!」
「そうなの?」
航さんが唯の顔を覗きこんできて唯は小さく頷く。
「だから電車で気分悪くなるのかな?」
「それだけじゃない…ですけど…」
でも当たってはいることなのでそれも小さく頷いた。
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