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追憶の彼方には戻らない 11

 それからも毎日学校があってもなくてもずっと航さんに電話しようかどうしようかと唯は悩んでいた。
 もう前の週から二週間が経とうとしている。そして二週とも同じ木曜日にあの犯人と思われる男と電車が一緒になったのだ。一度目は偶然。二度目は故意に。いや、乗り合わせたのは偶然で近づいたのが故意に、だ。

 今日がその木曜日だ。また会うだろうか?…また聞こえるだろうか?
 航さんに会ったのも偶然に木曜だった。次の木曜は光流が航さんを呼んでくれて…。今日も会えるなんて思ってはいないけど。

 それとなく光流に事件の事を聞いてみたら光流の話ではやっきになって捜査しているらしいが全然目撃情報も証拠も出ないらしく、さらに時間が経つに連れ厳しい状況になってきているらしい。
 唯が知っている事を言えたら…。
 テレビでは報道されていないけれど、連続殺人事件なはず。爪の事も言ってないし。

 はぁ…と唯は大きく息を吐いた。
 どうして知っちゃってしまったのか…。
 知らなければよかったのに。知ってしまった為に良心が苛まれてしまう。

 「紺野!」
 廊下から光流に呼ばれるのはもう珍しくない事になっていて唯は自分の席からそろりと立って廊下に出た。
 「今日は部活に出なきゃないんだ。俺は出たくないし出なくてもいいんだけど…顧問に泣かれたから」
 「うん」
 くすりと唯が笑った。

 光流は剣道部の中でもかなり強いらしく、高校は部活に入らないつもりだったのに泣きつかれて入れさせられたらしい。なのであんまり熱心に部活には出ないみたいなんだけど、総体も近いしまた泣かれたのだろう。
 「気をつけて帰れよ」
 「……別に大丈夫だけど」

 何故かいつも光流は余計な心配をする。そんなの別にいらないんだけど…。だってきっと今こんな風にしててもきっと唯の事を知ったら去っていくに決まっている。
 触っただけで考えが聞こえるなんて…。
 唯が顔を俯けるとじゃ、と光流が自分の教室に戻っていき、唯も自分の席に戻った。

 光流は唯が人との接触嫌悪症だと言ってから滅多に唯には触れない。だからこそ光流がどう思っているのか唯は知らない。知らなくていいし、それが普通なんだ。
 でも少しでも唯の事を煙たがってたり迷惑に思ってたりしたらどうしたって付き合うのは無理だ。
 だから人と仲良くなんてなりたくないのに…。

 自分の席に戻って唯ははぁ、と溜息を吐き出す。
 分かっているのにどうしても航さんとの繋がりがあると思うと無碍に出来なくているんだ。それに光流はちゃんと唯に距離を置いてくれるから…だから唯も嫌ともダメとも言えなくているんだ。
 とりあえず今は別にそれで問題があるわけでもないからいいけど…ずっとこのままの状態なら何も問題はないはず。
 唯はチャイムがなって教科書を並べた。


 光流が部活だというので一人で電車の駅に向かう。いつでも電車に乗る車両は自分の中で決まっていて同じ所からだ。そしてあの犯人だろう人に会ってからはドア付近に陣取る事にしている。いつでももし乗ってきたら分かるように、だ。
 そう思っても一緒になったのはまだ二回だけだけど、その二回で唯は誰も知らない犯人しか知りえない情報をかなり知ってしまっていた。

 そして今日は会う確率が高い木曜日だ。
 唯は電車の入り口に立ってどきどきしていた。
 やっぱりいた!
 ドアが開くと男は唯に気づき自分から唯に近づいてきた。

 「やぁ。今日は具合悪くない?」
 「はい…大丈夫です」
 すぐに唯の後ろに立って話しかけてくる。
 〝やっぱりこの子可愛いな。手は…うん…手も指も綺麗だ。女じゃないけど次はこの子でもいいかな…〟
 次…って…。
 どきりとして体が震えそうになってくる。

 「あの…不躾なんですけど…お仕事は何をされているんですか?」
 唯は小さな声でおずおずと振り向きながら聞いてみた。
 「ああ、こんな時間に電車って不思議に思うだろうね。会社役員なんだ。車には酔いやすくて電車で行くんだよ。いつも木曜日は打ち合わせがあるからこの時間なんだ。他の曜日には会わないだろう?」
 「そうですね」

 〝素直そうだしおとなしい〟
 舌なめずりしそうな雰囲気まで感じて唯はぞっとする。けれどそれを外に出しちゃいけない…。

 「来週もまたこの時間の電車かな?」
 見た目は優しそうな大人の人が唯に話しかけてくる。心の中では違う事を考えながら上辺には残虐そうなそんな片鱗も見当たらないのに…。
 「……多分。でも掃除当番があると少し遅いかも。あ、でももうすぐ総体もあるから…どうかな…」

 「今日はお友達はいないんだ?」
 「はい。部活って言ってた」
 会話は途切れ途切れで、唯は顔色が変わってませんようにと祈りながら会話をしていた。
 〝やっぱりこの子にしよう。もう少し距離を詰めて…〟
 唯は背中に微かに触れている男からの言葉をぎゅっと目を閉じて、でも顔を俯けないようにして前を向いて聞いていた。
 
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