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熱吐息 carezzando~愛情をこめて~6

 「ただいま」
 「おかえり~~」
 宗の声が遠い。
 「?」
 部屋の奥の方、キッチンの方から聞こえる。
 それに仄かに匂ってくるのは…。
 「宗っ!?」
 ぱたぱたと瑞希は部屋を横切った。
 「な、何してるのっ!?」
 「え?パスタ茹でてた。レトルトソースかければ出来上がり!瑞希疲れたろ?俺暇だったし。これ位は出来るかなと思って」
 宗は得意げな顔だ。
 会社を出て今から帰るって宗にメールしたらそれに合わせて作っていたらしい。
 「瑞希スーツ脱いできて?裸でもいいよ?」
 「……着替えてくる」
 宗の得意な顔が可愛い。
 それに嬉しい。
 嬉しいけど複雑だ。
 だって宗が料理出来たら瑞希のいる意味がなくなってしまう。
 宗が瑞希の部屋といった方の部屋に入ってクローゼットからTシャツを出してさっと着替える。
 ここは本当に着替えとかしか使っていない。いつもいるのはリビングだし、寝室は隣だ。
 モデルルームみたいな洒落た照明、フローリングに大きいテレビ。ソファは黒の革張り。
 こんな部屋で生活なんて未だ慣れない。
 「サラダ簡単に作るよ」
 宗と一緒にキッチンに立つ。
 「でも宗…しなくていいよ?」
 「…なんで?嬉しくない?」
 「嬉しいよ!嬉しいけど…」
 自分がいる意味がなくなるから。
 「…たまにならいいだろ?でも別に瑞希だって作るの毎日じゃなくていいんだぞ?疲れたら何か取ったっていいし、食べに行ったっていいんだ。仕事これからするのにお前にばっかり負担がかかるだろ?」
 「そんなの!全然っ!俺……置いてもらってるのに…」
 「瑞希」
 宗の声が低くなる。
 「置いてもらってるじゃないだろ。ここはもうお前の家でもあるんだから」 
 「………俺、の…?」
 「だろ。一緒に住んでるんだから。ああ!時間過ぎてるっ!」
 宗はちゃんと時間を計っていたらしい。それに思わず笑ってしまう。
 慌てて火から鍋を下ろした。
 キッチンも広くて二人で並んでも全然広い。
 「…宗、ありがと…」
 「礼なんかいらない」
 宗はぶっきらぼうに言った。
 レタスを千切って胡瓜トマトを切っただけの簡単サラダ。
 宗の初めてのパスタ。
 そういえばこうして人に料理をご馳走してもらうのは施設を出て以来、店以外では初めてだ。
 「…いただきます」 
 瑞希は顔が弛む。宗がわざわざ瑞希が初めての会社で疲れると思って用意してくれたのだ。
 「…おいし。ありがと」
 「……レトルトという所が酌に触るが…」
 宗は憮然とした顔を作っているけど照れ隠しだ。
 嬉しくて泣きたくなってきそうだ。
 「で、今日はどうだった?」
 宗もフォークを口に運んでいる。
 「ん……今日は会社の説明と部署の人に挨拶とかだから、どうってほどじゃなかったけど」
 「…配属は?」
 「営業」
 「…だろうな」
 宗は頷いた。
 「なんか新入社員挨拶、する…」
 「………瑞希が優秀だって事だ」
 宗がにっと笑った。
 「スーツも…ありがと。今日他の人見て分かった」
 「…いや。…だから、そういう事も気付くところが出来る奴だ。馬鹿な奴は何も気付かないからな」
 宗は頭を搔きながら照れている。
 今日は朝もだったけど、宗が可愛い。
 「…………いいけど、声かけられたりしなかったか?」
 「声…っていうか…小学校の時に一緒だった奴がいた。配属も同じ」
 はぁ、と瑞希は小さく溜息を吐き出した。
 「…どんな奴?」
 「小学校の時仲良かったんだ。だけど何故か向こうから避けるようになってあとは全然。…俺の事知ってるし…別に隠すつもりもないけど、面白おかしく言って回るような奴だったらやだな…って感じ。話しかけてきたのはそいつだけだよ。帰りに話しないかって聞かれたけど、俺そんな奴と話するつもりないし、早く帰りたかったから断って帰ってきたけど」
 宗の顔を早く見たかったんだ、とは言えないけれど。
 「…そいつの名前は」
 「斉藤。斉藤 良和」
 ふぅん、と宗は鼻をならしたがそれ以上は何も聞いてこなかった。
 綺麗だ、とか言われたのはのは言わなくていい、よね。
 「………やっぱ面白くねぇなぁ…」
 宗が拗ねたように言う。
 「……宗…今日、可愛い」
 「可愛い!?」
 宗が素っ頓狂な声を上げた。
 「ん…今日すごく、可愛い」
 瑞希はくすっと微笑んだ。
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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