航さんも小木さんという人も光流の事を話して唯の緊張を解こうと思ったのだろうと思う。
車に乗ってから唯は極度の緊張に体を強張らせていたのは確かだ。
「信じて…いただけないかも…なんですけど…」
顔を上げて言おう!と思ったけれどやっぱり言葉は尻すぼみになってしまう。
喉が渇いて口の中もかぴかぴだ。
自分から事情も知らない人にわざわざ告げる事になるとは自分でも思ってもみなかった。
「…犯人を知ってると言ったね」
航さんが隣で唯を促すように口を開きながら唯の顔をじっと見つめていた。
こんな時でもやっぱりかっこいいな、と思ってしまう。
「知ってます。でもそれの前にちょっと話しておかなければない事が…」
何故知っているかの説明をしなくてはいけないんだ。
航さんの顔を見ると小さくこくんと頷いて唯に先を促していた。
唯も息を小さく飲み込んで頷いた。
けれど視線は外してしまう。航さんの目にどんな表情が浮かぶか見たくはなかった。
だって気味悪い、って目で見られたら泣いてしまいそうだ。
「…僕…小さい頃から…人が思ってる事が聞こえるんです」
「は…?」
小木さんが素っ頓狂な声を上げた。その気持ちがよく分かってしまう。自分で言っておきながらやっぱりそんな事信じるはずないよね、と突っ込んでしまう。
「……人の思ってる事…?何もしなくても聞こえる?」
航さんの真剣な声だったけど、やっぱり顔は見られない。
「いえ。触れば…です。手でも体の一部でも」
「………人との接触嫌悪症って光流が言ってたけど、それか?」
小さく唯は頷いた。
「あ、あの!航さんだけは違うんです!航さんだけのは聞こえない!」
いつでも心を読んでいると思われてはと唯は慌てて声を上げた。
「…光流は手を払われた、と言ってたよな?俺はいい、と。俺のが聞こえないから?」
「…そう、です」
唯は再び顔を俯けた。
「誰のでも触れば聞こえる?」
「…多分。航さんみたいな人がいるかもしれないけど…聞こえないの…航さんが初めてで…」
「…小木の読んでみて、って出来る?それとも嫌だ?」
「いえ。触れば聞こえちゃうんで…小木さんがいいなら…」
実際にやってみない事には信用してくれないと思うからそこに唯は頷いた。
「ちょっと触るだけでもいいの?」
そっと小木さんが唯の足に手を触れた。
「……はい。……嘘だ、嘘だ、冗談でしょ、って思ってる」
「小木、彼女とは?うまくいってる?」
航さんが質問するとすぐに小木さんから声が聞こえてくる。
「えと……航さんの…所為で危ないって…」
「俺の所為かよ」
「そうですよ!先輩が休まないから!いっつも俺にまでとばっちりですもん!」
航さんがくっくっと笑っていた。その笑いを引っ込めると唯の頬に大きな手で触れた。
「俺のは?」
唯はふるふると首を横に振った。
「聞こえません」
「ふぅん。不思議だな。俺の事は置いといて、触れないと声は聞こえないんだな?でも犯人を知ってるという事は触れたんだ?」
「はい。……先々週も先週も電車を降りた後に具合が悪かったのはそれのせいです。具合が悪かったというか精神的に疲れたから…。わざと自分からくっ付いて読んでやろうと思って…」
「それで?」
「報道されてないですけど、連続殺人ですよね?手の指の爪が最初は小指、次が薬指…はがされてた」
「………そうだ」
「凶器は公園だそうです。どこの公園かは言わなかったけど…」
「…顔も見たか?」
唯は頷いた。
「もう今日で会ったの三度目です。今日も顔を合わせて話もしました。二回とも隣にいて具合悪くしちゃって覚えられたみたいで…」
「この中にいるか?」
航さんが結構な枚数の写真を出してきた。
唯はそれを眺めた。何枚もあるのは隠し撮りだろうものから事件の野次馬かなんかで写したものなど色々だった。
「…いないみたい」
「そうか」
「それで…今日も…さっき電車で一緒だった…んですけど…次のターゲットが…僕って…」
「何!?」
「電車で…後ろに立って…そう言ってた…」
あの声を思い出して体がまた震えそうになってくる。
「僕が逃げても…また誰かを狙うかもと…思って…」
自分の言える事は全部言った。航さんはどう思うだろう?気持ち悪い…人じゃないって、思うだろうか…?
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