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追憶の彼方には戻らない 16

 「失礼します」
 小木さんがそう言ってドアを開けると、光流にも航さんにも似たやっぱり背の高い人がそこにいた。
 「光流の同級生で紺野 唯くんです」
 「光流と同級生……?…ずいぶん可愛らしいな」
 ふわりと笑った顔は悪印象はない。でもやっぱりきりっとしてる感じでそこは光流のお父さんで航さんのお兄さんかも、と納得してしまう。笑った顔が光流と似ていた。

 「光流と似てる…」
 小さく唯が呟くと当たり前だといわんばかりにくすりと航さんが笑う。
 「あの連続事件の総指揮が光流のお父さんなんだ」
 「航」
 鋭く光流のお父さんが声を出した。

 「いいんです。彼は知っているんです」
 「…知っている?」
 「そう」
 航さんが頷き、小木さんも頷いた。
 「どういう事だ?」

 初めて入った警視庁の中、確か光流のお父さんはかなり地位が上と聞いたけれど…。
 「唯くん、こっち。小木、コーヒーでも入れろ」
 「…ほらね。口調がもう…」 
 はぁ~と小木さんがわざとらしく溜息を吐きながらも部屋を出て行き、唯は航さんに背中を押されて部屋のソファに座らされた。

 「航?どういう事だ?」
 そのソファに唯は航さんと並んで座って、光流のお父さんは向かい側だ。
 光流のお父さんという事は航さんのお兄さんなわけで、結構年が離れているのは光流にも聞いていたけどなるほど、と納得してしまう。

 「俺から説明しようか?途中何か足りなかったら唯くん言って?」
 「…はい」
 航さんが唯の説明をしてくれ、その途中で話をふられ、付け足しながらもさっき航さんと小木さんにした話を終える。
 「小木君、駅のカメラで確認させるから映像」
 「了解です」
 光流のお父さんの言葉に小木さんがさっと部屋を出て行った。

 「航、護衛」
 「勿論」
 「学校内は光流に任せるしかないか…」
 「でも、あの…学校まではないかと…多分。電車で乗り合わせるだけだし…焦っている感じじゃなかったし…じわじわと罠を張って…というような…感じで言ってたから…だから…あの…そんなに…いいです…」

 「それでも用心するに越した事はない。光流とクラスは違うのか?」
 「違います」
 「うーん…」
 悩んでしまう光流のお父さんに申し訳なくなってしまう。
 「あの…本当に大丈夫です」

 「それよりも光流に唯くんの事を話しないといけない事になるけど…?」
 航さんにそう言われて唯は顔を俯ける。
 「……話したくないんだね」
 小さく頷いた。
 「あの!光流を信用してないとか、そんなんじゃないんです。ただ…」

 唯が俯くと航さんが背中をぽんぽんと優しく叩いてくれる。
 「光流は大丈夫だよ。俺の甥だしね」
 「……でも…航さんと違う。光流のは…聞こえるもん…」
 「大丈夫だよ。唯くん。アルバイトしないかね?しかるべき学校をでたら就職という約束で。これは機密クラスの話になるのだが、ここにはね、特殊能力の部署があるんだよ」
 「……え?」

 「肉体の訓練と違ってこういった力は持って生まれたものだ。捜査に役立つのなら、とね。アメリカ等に比べたら日本の警察はこういったことにまだまだ後進的だが…。そして光流は警察に入る事を目標にしているし、あいつは航と違ってキャリア組を目指してトップを取る気でいるからね。こんな事で揺れるほどやわじゃないよ?」
 光流のお父さんが堂々と息子の自慢をするのに唯はいいな、と笑みを浮かべた。

 「……言ってみます」
 「大丈夫」
 航さんがぽんぽんと唯の背中を励ますように叩いてくれた。
 「で?アルバイトと将来はどうかね?もちろん無理強いは出来ないし、いつ仕事があるかといったら保障はないけれど」
 「あの……僕で…役立つのなら…したいです。…今までこんなのいらない、ってずっと思ってたけど…」

 唯は顔を上げて光流のお父さんに視線を向けた。
 「じゃあアルバイト任命だ」
 「ありがとうございます…」
 正直に嬉しい。
 こんな自分はこの先もどうしたらいいんだろうって思っていたのに!

 「航さん」
 嬉しくて隣に座っていた航さんの腕を両手で掴んだ。
 「よかったね」
 「うん」
 航さんが優しい顔で見てくれてますます嬉しくなる。そしてなんかずっと航さんに触ってばっかりだ、とはっと気づいて手を離した。

 「すみません…」
 「ん?別にいいけど?」
 ぎゅっと航さんがまた唯の肩を抱き寄せる。
 「唯くんにこんな事していいの俺だけでしょう?」
 「…うん」

 だって航さんのは聞こえないから。
 「………航。犯罪者になるつもりか?」
 「さて?何の事ですかね」
 光流のお父さんと航さんが怖い笑顔を向け合っていた。
 
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