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追憶の彼方には戻らない 17

 「あ、これ!この人です」
 今日の駅のホームの監視カメラの映像を見て唯は声をあげた。
 電車に乗ってきた時間は分かっているし探すのは簡単な作業だった。
 公園というキーワードもすでに発せられていて、公園にという直接の指示は出していなかったらしいけれど、埋められている可能性もという指示で捜査員が動いているらしい。

 唯の指差した人物を光流のお父さんと航さん小木さんが覗き込んでいる。
 「インテリっぽく見えなくもないか?」
 「見えます。今日聞いたら会社役員で木曜日は決まった時間に打ち合わせがあるから時間が一緒になるみたいで…。他の曜日は違うようなこと言ってました」

 「………唯くん」
 「はい」
 パソコンの中を覗き込んでいた唯だったけど後ろから航さんに呼ばれて振り向いた。
 「危ない事はしない事」
 「……今日は危なくは…だって今日会ってから僕にターゲット決めたみたいだし…」

 「危ないと思ったら電車に乗る時間変えるとかが普通で、接触する事は危ない事だろう?」
 「だって……僕しか聞こえない…」
 航さんに言われて唯はしゅんとしてしまう。
 「まぁ、…その事があってやっと言ってくれたからよかったけど。これからもし同じような事があったら最初の時点で言いなさい。分かったね」
 「……はい」

 航さんから注意を受けるけれどそれも嬉しい。だって誰も唯の事なんて気にしないのに…。両親でさえ唯の事に何も口出ししないんだ。
 それなのに航さんはそんな事言ってくれるから…。
 犯人の名前や住所の割り出しはもう唯には関係のない事だった。

 「さて今日は唯くんはどうしたらいいですかね?」
 航さんが光流のお父さんに聞いていた。
 どうって何がだろう?
 「ホテルか…。張りこみに人員を割けるなら自宅でも構わないが唯くんの事は公にはできないからな…」
 「お友達のおウチでいいんじゃないでしょうかね?」

 「……友達?…ああ、うちか。まぁそれでもいいけど。セキュリティはしっかりしているしな」
 「唯くんいい?」
 「え、と…何が?」
 「君の事。危険だからだ家には帰せないんだ。セキュリティとかちゃんとしてるところじゃないとね。それで今日は光流んちにお泊り。いい?」

 「え…?いい…ってあのいいです。僕、家に帰ります」
 「うーん帰ってもいいんだけどそうすると俺と小木が外でずっと見張りしてなきゃないんだよね」
 「え!?」
 「いつ不審者が近づいてくるか分からないからね」
 そうなんですか?と唯が光流のお父さんに視線を向けると頷かれてしまった。

 「ちょうどいいからうちに行って光流と話しなさい。大丈夫だから」
 「……はい」
 光流の家の家長にそんな風に言われたら断れない。それに自分の家に行ったら航さんも外で、なんて。
 「航も泊まるんだな」
 「仕方ないですからね。小木は明日の朝来い」
 「了解です」

 「唯くんの家に連絡は光流の家に行ってからね。光流のお母さんに電話に出てもらったほうが唯くんのお母さんだって安心するだろうから」
 「…多分僕の事…そんなに心配なんてしてないと思うけど」
 「…するに決まってる」
 小さく呟いた唯の言葉は誰にも聞こえないだろうと思ったのに航さんがしっかり拾っていた。

 「さ、行こうか。兄貴、義姉さんに電話しといてくれる?」
 「言っとくよ。そうだな…唯くんが行くのは光流には内緒にしておいてくれと言っておこう」
 「はは…驚かせるのか!」
 見目のいい兄弟が顔を合わせてにっと笑っていた。

 仲がいいんだろうな、と武川家が羨ましくなる。人を羨んでも仕方ないとは分かっている。
 もし自分の力みたいなのが光流にあったならばきっともっと有効に使ってみんな円満だったのかもしれない。
 こうして航さんや光流のお父さんが普通に接してくれるだけで唯にとってはもう感謝したい位だ。

 どうやら強制的に光流の家に行く事になって小木さんの運転する車の後部座席に唯は乗っている。今度はさすがに航さんは助手席だ。
 さっきはずっと航さんに縋るようにして抱きつきっぱなしだったけど…。今考えると恥ずかしい。しかも目までうるうるしてたはずだ。

 一人で恥ずかしくなってかぁっと顔を赤くしていたらバックミラーで唯を見てたのか小木さんにどうした?と聞かれて慌てて首を横に何回も振った。
 どうしてこんな事になったのだろう?
 めまぐるしく状況が変わってしまった。
 駅で4人に絡まれた事なんてなんて本当に些細な事だろう。
 それも航さんか助けてくれたから唯の中では嬉しい事になってしまっているんだ。
 
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