「あら」
声が聞こえて唯ははっと目を覚ました。
ええと、どこだっけ、何してた?と唯の頭が一瞬混乱する。
「おはよう。ちょっとは休めたかな?」
唯の頭の上から航さんの低い笑いを含んだ声が響いてきた。
どうやらご飯を待つ間に武川家のソファに座ったまま航さんに寄りかかってうとうとと居眠りしてしまっていたらしい。向かいでは光流がくっくっと笑っていた。
「う、わっ!ごめんなさいっ!」
慌てて体を起こして航さんから離れる。緊張が解けて、航さんがいるから安心したのだろうか…?
「ねぇ?光流のお友達なんだよね?どうして航くんの方と仲よさそうに見えるかな?」
「お母さん、そこはほら、ね。俺は友達だけど~」
「え?え?ホントに?ホントに?」
きらりと光流のお母さんが目を輝かせたように見えたのは気のせいだろうか。
「くだらない事言ってないで。唯くんおいで」
航さんが唯の手を引っ張ってダイニングまで連れて行ってくれるけど、別に手は繋がなくともいいと思う。…思うけど黙っておく。人に普通に触れられるのが嬉しい。
前を歩く航さんはワイシャツ姿だ。袖は捲くってネクタイも外していてボタンも首から二つ位外していてなんかルーズな格好もカッコイイ。背中が広くて大人の男の人だ。
いいけどなんで手繋いでるのだろう?
でも嬉しいんだ。
航さんだけが唯の特別だ。
これって好きって事とどう違うんだろう?
そんな事を思いながら食卓についた。
食卓は8人がけの大きいテーブルだった。家も立派だしすごいなぁと唯はただ眺めるだけだ。
航さんに光流のお父さんが泊まっていくのか、と聞いていたからきっと普段航さんは別に暮らしているのだろう。
和やかな食卓。
唯は家でもいつも無言だし、ただ作ってもらったご飯を食べるだけだった。こんな子にお母さんはちゃんとご飯もお弁当も用意してくれるし感謝していないわけじゃない。でもどうしても心の中で言われた言葉を思い出してしまうんだ。
そしてきっとお母さんもお父さんも心で思った事が唯に分かられてしまうのが怖いから…。
だから離れていたほうがいいんだ。
「唯くん?どう?おいしくないかな?」
「あ!いいえ!あの…美味しいです」
ぼんやりしてたら気を遣わせてしまう。
「紺野、これもわりとイけてるほうだぞ」
「うん…。美味しい」
きっと家では唯がいなくて安心しているかもしれない。きっとそうだ。
それも当然かな、とも思って苦笑してしまう。
ご飯を食べ終えると話あるから!と光流がさっさと唯を連れて二階に上がっていった。
「叔父貴はいらねぇよ?」
「そういうわけにもいかないんだ」
「んん?何?」
「唯くんの護衛だ」
「ああん?」
「だからわざわざ泊まるんだよ」
「ふぅん?護衛ね…なんで叔父貴までと思ったら。…ならしかたねぇな」
光流はさっさと諦めたのか航さんがついてくるのにも何も言わなかった。
二人の会話はスムーズで唯がんん?と考えているうちに終わってしまう。
階段も広くて何もかもが唯の常識から外れている気がしてしまう。
光流の部屋も広くて唯の部屋の4倍位はありそうだ。渋めの色のフローリングで机やベッドも合わせた色合いだ。
「で?」
どかりと光流は自分のテレビの前に置かれてるソファに座り、唯は航さんと並んでクッションに座る。
「ええと…光流ごめん」
唯は謝って手を伸ばして光流の足に触った。
「え?何?接触嫌悪症じゃないの?」
「ううん…ちょっと違う」
「光流、ファーストキスは?」
航さんがくすりと笑いながら光流に質問した。
「はぁ?何言ってんの?」
〝小学校5年だな〟
「小学校5年だって……早…」
唯なんてまだなのに…。
「え?あ?…はぁ?何?なんで?叔父貴だって知らねぇはずなのに」
「相手の子は?」
「……」
〝言う訳ねぇだろが。家庭教師の女子大生だなんてな!〟
唯はちろっと光流を見て胡乱な目をしてから航さんに振り返った。
「家庭教師の女子大生だって」
「はっ!マジか!すげぇなお前」
航さんが声を出して笑っている。
「ちょ!ちょ!何!?一体何がどうなってるわけ!?」
唯は光流から手を離した。
その唯の手を光流がじっと見る。
「…僕ね…触ると心の声が聞こえるんだ。だから…触らないでって…」
光流がどんな反応をするのか不安でつい航さんの方に体を寄せてくっ付いてしまう。
すると航さんが大丈夫だと言わんばかりに唯の頭を撫でてくれた。
「ちょっと待って」
そう言って光流はじっと眉間に皺を寄せて唯を見つめていた。
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