ぬっと光流が手を伸ばしてきて唯はびくんと体を揺らした。その光流の手が唯の膝に置かれた。
〝聞こえる?〟
「うん」
〝すげぇ~!ホントに?〟
「…うん」
聞こえる事を知って自分からわざわざ触れてきたのは光流が初めてだった。
〝じゃあ紺野のファーストキスは?〟
「ま…ま、だ…だもん」
かぁっと真っ赤になると光流が手を離して笑い出した。
「笑う事ないじゃん!」
「ちげぇって!ファーストキスまだに笑ったんじゃねぇよ!マジで!?すげぇ~!なるほど!だから触るな、か。あ、叔父貴聞こえた?紺野はファーストキスまだだって」
「……セクハラだな」
「なんだよ!俺にはセクハラじゃねぇのかよ」
「当たり前だ」
なんだよそれ、とか言いながらも光流は笑っている。
「分かった。紺野に触る時は考えて触ればいいんだな」
「そこまでして触る必要もないだろう」
航さんが呆れたように呟いた。唯は馬鹿にされたと思って航さんの後ろに隠れていたけれどそうじゃないのかな、とそろりと顔を出す。
「そんで?なんで叔父貴は触っていいの?」
「航さんのは聞こえないから」
「ん?叔父貴の考えてる事が聞こえない?」
こくりと唯は頷いた。
「なんも考えてねぇだけじゃねぇの~?…イデ!」
ゴツンと音がする位の拳骨が航さんから繰り出された。
「だ、大丈夫…?音したよ…?」
「平気。いつもの事だし」
…拳骨がいつもの事って…。
そろりと航さんを見上げた。
「唯くんにはしないよ?勿論」
「はいはい。まぁいいけど…。聞こえないのって叔父貴だけ?」
「うん…。初めてだった。もしかしたら他にもいるかもしれないけれど今まででは初めて…」
「ふぅん。なんでだろうな?」
分からないと唯は首を横に振った。
「それで?」
「…続きは俺が話しても?」
航さんが唯の顔を覗きこんで聞いてきて、事件の事は航さんの方が筋道立てて話せるだろうとお任せする。
光流は黙って航さんの話を真面目に途中で説明を求めたりしながら聞いていた。
唯がなぜ武川家まで来たか話し終え航さんが口を閉じた。
「しばらくウチにいた方いいんじゃないか?」
光流が真面目な面持ちでそう言った。
「…でも…まさか…」
唯は首を横に振った。
「そんなん聞いたら…。木曜日といわずにスイッチ入ったら接触してくる可能性あんだろう?」
「それまでに証拠をあげられればいいが…」
「無理じゃね?凶器見つかったって指紋も何も残っちゃねぇって。二件とも何も残ってないのに」
航さんもそこはそう思っているのか黙ってしまう。
「…あの…かえって僕を餌にしたら…?航さん…守ってくれるって…だったら現行犯で…」
「囮でしょっ引いてからってか」
光流が言葉を吐き出した。
「賛成しかねるね」
航さんがきっぱりと言った。
「君はまだ高校生だ。そんな事は考えていない」
「当たり前だっつうの。少しだって紺野を危険な目に合わせるのは反対だ」
光流にまで反対されて唯はしょぼくれた。
少しでも自分が役に立つなら唯はそれでいいのに…。
階下から光流を呼ぶおばさんの声が聞こえると光流がドアを開けて顔を出した。
「何?」
「唯くんと航くんの着替えとか。唯くんのお部屋はどうしたらいいかな?」
「いいよ。こっちで適当にするから。空き部屋でもなんでも使っていいっしょ?」
「いいけど、そう?じゃお風呂順番に入って」
「了解」
光流とお母さんのほのぼのな会話だ。こんなナチュラルに話せる親子っていいな、とやっぱりちょっと羨ましい。
そんな事を思っていると航さんがそんな唯に気づいたのか肩をぽんぽんと叩いてくれる。
「…大丈夫です」
にこりと笑みを浮かべて航さんを見たら航さんがそうか、と小さく呟いて優しい目で唯を見ていた。その目にどきどきしてしまって思わず顔を俯けてしまう。
そして顔を俯けたら手がまた無意識に航さんのシャツを掴んでいて慌てて手を離した。
どうにも航さんが優しいからか、人肌が恋しいのか、声が聞こえないからか、理由がどれかは知らないけれど、とにかく意識しないでいると航さんに引っ付きたくて仕方ないらしい。
航さんは何も言わないで唯の好きな様にさせてくれるし、頭を撫でたり肩や背中を叩いてくれたりする。
きっと唯の事を可哀相な子とでも思っているんだろうけど、唯にはそれで十分だった。
たくさんのポチいつもありがとうございますm(__)m
にほんブログ村小説(BL) ブログランキングへにほんブログ村 BL小説