ぱっと目を覚ますともう外は明るくなっていた。携帯はどこだろうときょろりと部屋の中を見ると航さんが置いてくれたのか枕元にあった。
時間を確かめればまだ六時前。
早起きしすぎ…。
でもぐっすり眠ったのか目覚めは快適だった。
それにしても空きの部屋にまでベッドって…と唯は自分が使わせてもらった部屋を眺めた。
ゲスト用の部屋らしくベッドも整われているのに物は何もない。でもクローゼットやチェストやテーブルと椅子もある。
唯はホテルに泊まった感覚で窓際に行くとカーテンを開け椅子に腰かけた。
今日の授業で使う教科書で唯が家に置いてある分は光流から借りる事になっていた。授業が重なっているものはわざわざ光流が唯の教室まで届けてくれるらしい。取りに行くと言ったら何故か知らないけどダメ、と光流に笑って断られてしまった。
昨日あった事を思い出す。
光流は唯の事を知っても全然気にせずに自分から唯に触れてきた。
それが嬉しかった。
だからといって気を抜くつもりはなく、やはり光流には触れないようにしていた方がいいに決まっている。唯が安心して触れるのは聞こえない航さんだけなんだ。
だから航さんだけが特別。
触っても触られても航さんの声だけは聞こえない。
嬉しいはずなのにどうしてこんなに航さんが何を思っているのか知りたいと思うのだろう?
誰の思いも知りたいと思った事もないし、自分から触れる事もないのに、航さんには自分からも触れている。
聞こえないから触れているんじゃなくて、航さんが何を思っているのか聞きたくて触れているというのもあるんだ。
聞こえてはこないんだけど間違って聞こえてくるんじゃ…?と思いながら触れている。
そんな事思っちゃいけないのに…。
でもやっぱり航さんからは何も聞こえてこない。
それが安心するしちょっとガックリもしてしまう。
ううん…。聞こえないほうがいいに決まっている。もし航さんが唯の事をうざいとか思っているのが分かったらきっと二度と航さんの近くにはいけないと思うから、やっぱり聞こえなくていいんだ。
聞こえなかったら唯は航さんに触れる事が出来るし傍に寄れる。
…もう昨日から考える事は航さんの事だけだ。
犯人の事は告白しちゃってからはもう全然考えていない。あんなにどうしようとずっと二週間も悩んでいたのに。
昨日光流に寝るとこどうする?と聞かれ、航さんと一緒に寝る?と聞かれたのには慌てて首を横に振って断ったけど、本当はちょっとそうしてみたかった。光流は唯が航さんにべたべたしているのをからかったのだろうけど…。唯が本当にそうしたい、なんて言ったら引くに決まっている。
航さんの傍は気持ちがいい。安心する。
……でも異様にどきどきする時もあるけど。
はぁ、と朝から溜息を吐き出してしまった。
ぼうっと椅子に座って外を眺めながらアレコレと考えているうちにいつも起きる時間の6時半のアラームがなってすぐにそれを止めた。
着替えをするにも制服のシャツは洗濯してもらっていてない。
どうしようと思っていたら小さいノックが聞こえ、すぐに椅子から立ち上がってドアを開けた。
「あ…おはようございます」
ドアの前に立っていたのは航さんだった。
「おはよう。起きてたのか?」
「はい。早くに目が覚めちゃって」
ちょっと驚いたような目をした航さんを見て少し嬉しくなる。
「あ、あの…昨日…すみません…その…ベッドに…」
「ああ…別にいいよ」
くすりと航さんに笑われた。部屋に入ってベッドにダイブしたあとすぐにそのまま寝ちゃってたなんてちょっと恥ずかしい。
「あの、半分は起きてたんです…でも目も開けられなくて…」
言い訳がましく唯が焦って言葉を出せば航さんがくすりと笑って手に持っていた唯の制服のシャツだろう物を手渡してくれそして頭を撫でられた。
「昨日は疲れただろうからね。体も精神的にも」
唯は小さくこくりと頷いた。
「でも少しは安心した?」
「…はい」
少しどころじゃないけど…。
じゃあ着替えたら下に下りておいで。今日使わない荷物はそのまま部屋に置いてていいから」
もう一度こくんと頷いてドアを閉めた。
…………なんか…朝から航さんの顔が見れる…ってすごくいい…と思いながら唯は今もらったばかりのいい匂いのするシャツに顔を埋めた。
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