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熱吐息 agitato~激して~1

 入社式。
 本社だけでなく各地から新入社員が集まるので会場で行われた。
 さすがにその中で挨拶ともなれば緊張してしまう。
 自分よりももっと適役がいるだろうに、と思わなくもないけれど…。
 多くの視線が向けられる中でどうにか無事に大役を終える。
 列席には社長や役員も並んでいる。
 社長の視線が一際強いように思うのは気のせいだろうか?
 ずっと自分の境遇のおかげで人の視線には敏感だ。
 それにしても社長って背も高いしかっこいい。
 しぶい大人のスマートな壮年の男性って感じだ。
 あんな男になりたい、がどうしたって自分では無理だろう。
 宗ならなれるかも。
 思わず顔が弛みそうになる。

 今日は地方から来ている者も多いので入社式だけ。
 正式な出勤は明日からだ。
 「君」
 声をかけられて後ろから肩を掴まれた。
 「はい?」
 誰だろうと後ろを振り向いたら社長で、驚きすぎて瑞希は声が出なかった。
 周りの新入社員達の視線も突き刺さる。
 「宇多くんといったな。挨拶もよかった。……期待している」
 「あ、…ありがとうございます」
 オーラがすごい。
 上に君臨するものの威厳と威圧を感じる。
 がばっと瑞希は頭を下げた。
 言葉はそれだけだったけど、思わず呆けてしまう。
 他の役員と姿を消す社長の後姿を視線で追ってしまう。
 少しでもああいう風になれるように近づきたい。
 たとえ無理だとしたって目標にするのは自由だろう。
 社長も二階堂…。
 二階堂という人は皆立派な、かっこいい人しかいないのか??
 自分の考えがおかしくて瑞希は肩を竦めた。

 「よう、お疲れ」
 「…おつかれさま」
 「すげえな…。将来有望だ」
 斉藤だった。
 ちらちらと瑞希に視線を向けられる中で斉藤が話しかけてきた。
 周りの視線は嫉妬と羨望が混じっている。
 斉藤はというと目も態度も普通だった。
 それに安心する。
 少しでも斉藤が瑞希に対して負の印象があれば瑞希を貶める事は簡単な事だ。
 それでも自分は負ける気はない。
 斉藤は小学校の時の事などなにもなかったかのように接してくるし、瑞希の事情を知っていても態度も普通だ。
 声をかけられ、仕方なく一緒に会場を後にした。
 「明日からだな」
 「…そうだね」
 瑞希は携帯を出して宗にメールを打った。
 終わったからあと帰る、と。
 「彼女?」
 斉藤が聞いてきた。
 「……彼女じゃない。…同居人だ」
 なんと答えていいのか分からなかった。
 彼氏とは言えない。
 しまった、恋人と濁せばよかったのか…?
 恋人……。
 心の中で思わず一人で動揺する。
 「男?」
 「…同居に女の子はないだろ」
 「…だよな」
 どこか含んだ言い方に瑞希は眉間に皺を寄せた。
 「じゃ、俺こっちだから。明日」
 「あ、お、おう」
 さっと瑞希は方向を変えて斉藤と別れて駅に向かうと宗からメールが返ってきた。
 早かったね、気をつけて、と素っ気無い。
 けれど一緒にいればメールもしないからメールが嬉しく思う。
 友達さえ作らなかったからアドレスを知っていても瑞希は誰かにメールなど滅多にしない。
 帰るコール…。
 新婚みたいな感じだろうか?
 思わずそう思ってしまってかっと瑞希は一人でうろたえた。
 

 「ただいま」
 「おかえり~~」
 宗がリビングのソファでごろりと横になっていた。
 その脇を通り過ぎようとしたら宗の腕が伸びてきて体を掴まえられた。
 「宗!皺になる!」
 「大丈夫。脱がしてあげるから」
 「……自分で脱げるっ」
 宗の上に倒れ込むようにして腕に掴まり、宗の手がそそくさと瑞希のスーツのボタンを取ってベルトを外していく。
 「そ、宗っ」
 「何?」
 「着替えてくるから…」
 「だめ。俺が脱がせたいの」
 スーツが皺になるのが嫌で仕方なく宗に脱がせられるのに協力する。
 「…瑞希、エロい」
 「…は?」
 宗が満足そうで、自分の姿を見れば身に着けていたのはシャツがはだけた状態で1枚だけだった。
 「これが俺のシャツなら完璧だな」
 ……なにが完璧なのか。
 「瑞希」
 宗が瑞希の身体を下にして唇を重ねた。
 「挨拶は?」
 「うん。大丈夫だった」
 宗が笑みを浮べた。
 「社長に声かけられたよ」
 「…………………そうなんだ?」
 「うん。びっくりした」
 ん~、と宗が唸っていたのに瑞希は首を捻った。
 
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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