光流のお母さんがお弁当まで作ってくれてそして小木さん運転の車で学校に向かった。
特に混んでいる朝の電車はダメと航さんからのダメ出しだった。
車に光流も勿論一緒に乗り込んでいた。
「人物が割り出された。名前が大沼優一、38歳。逮捕歴なし。会社役員は本当で、父親の会社らしい。それと凶器も見つかった。やはり指紋などなし。小さめの包丁でホームセンターなんかでよく売っているもので入手手段調べるのも難しいな」
「頭いいんだろうね」
「一流大学出だ。そして警察の試験に落ちているらしい」
航さんの言葉に後部座席に並んで座っていた光流と顔を合わせた。
「あ、…そういえば…ざまぁみろって……言ってた…」
小さく唯が言うと航さんが助手席から振り返った。
「警察を馬鹿にしている感じか?」
こくこくと唯が頷く。
「警察に対する挑戦状って感じかな…」
小木さんが呟いた。
「ムカツク野朗ですね」
「…だな。だが残念ながら今は何一つこいつに繋がっているものが見えない」
唯は顔を俯けた。
もし犯人じゃなかったらどうしようと不安が覆う。
あの人が心で言っていた事と事件が繋がっているのだからそれはない、と思いながらも不安になってしまう。分かっているのは唯だけなのだ。
もし唯がでたらめを言ったらそれに惑わされる事になってしまうのだから。
航さんは唯は嘘はつかないと言ったけど、勿論唯は嘘をつくきはないけれど、もし間違った情報を言ったらその責任はどうしたらいいのだろう?
「唯?どうかした?」
考え込んでしまった唯を光流が心配そうに見ていた。
ううん、なんでもない…と唯は小さく首を振った。
「唯くん、責任を感じる事はないよ。今回の事件は本当にお手上げだったんだ。有力情報も何もなくて。きちんと調べて証拠が揃ったらの逮捕になるし唯くんの言葉一つで逮捕なんて事はないからね」
航さんが静かな声で諭すように言葉を紡ぎ、そしてそれはすとんと唯の心に響いてくる。
「……はい」
航さんはどうして唯の感じた事が分かるのだろうか?
でも航さんの言葉のおかげで少しだけ気が楽になった。
確かにこんな子供の意見だけで逮捕なんてあるはずがないんだ。
「そんな事よりも試験が近いだろう?試験の心配をした方がいいと思うよ?事件の事はこっちに任せて。…とは言っても唯くんが危険な事に変わりはないからどうしとも警護で付き纏ってしまう事になるが…。うざいと思うかもしれないけどそこは我慢してね」
「うざいなんて…そんな事…」
思うはずなんてない。
航さんが近くにいてくれた方が唯は安心するに決まっている。
「学校にいる間は光流頼んだぞ?」
「勿論。唯、昼飯一緒に食べようね~」
「………やだ」
「え!なんで!?」
「だって…きっと色々聞かれたりとかするだろうし…。説明どうしたらいいか分からないもん」
弁当箱は持っていたから自分の弁当箱に詰めてもらったけど、中身は光流と一緒なんて絶対変。まわりがそこまで気にするかは疑問だけど、光流の事を聞かれる事は多いのだ。
「それに光流が来るようになってから光流の事聞かれたりする…」
「え~?でも俺ほどじゃないと思うけど…。俺なんかどうやって唯と仲良くなったってクラス違う奴等にも聞かれるし!」
「そ、う…なの?」
「決まってるじゃん」
光流が断言した。
「わかるなぁ~…でも男子校じゃなくてよかったねぇ~」
小木さんが運転しながら頷いている。
「そうそう。でも唯と話すようになったの叔父貴のおかげだからね」
「はい?どうして?光流くん学校一緒なのに先輩の方が先?」
「そう。学校じゃクラス違うしね。唯はいっつも一人でいる感じだったし。駅で叔父貴が具合悪くしてる唯に声かけて、叔父貴の携帯教えに行ったのが最初だもんな」
「…うん。あの…そういえば…どうして航さん…携帯番号とか…」
教えてくれたのだろう?
「……何かを言いたくて必死な目をしてたから…かな」
航さんがくすりと笑いながら答えてくれる。確かに縋りつきそうな勢いだったと唯は反省した。
「唯!そういや俺携帯知らないし!教えて」
「あ、うん…」
「叔父貴のメアドもついでに教えとくよ?」
「ああ」
前から返事が帰ってきて唯はよかった、と喜んだ。また一つ航さんとの繋がりが増えた気がしてしまう。
「唯くん、あと俺の携帯に空メールでいいから送って」
「はい」
航さんに言われてこくこくと頷く。空でなんて送らない。なにかちゃんと考えてから送ろう、と唯は頭の中で文章を考え始めた。
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