「じゃあ近辺で張り込んでいるから終わったら連絡」
「了解」
車は学校近くまで来て航さんと光流が打ち合わせ中だ。
「しかし二人じゃ足んないですよね…」
小木さんがぼやいた。
「仕方ないからな…」
次のターゲットが分かってるだなんてまさか言えるはずもない。
そのまま光流と歩いて学校に向かっていると好奇の視線がいっぱい向けられているのが分かった。
「なんか見られてる」
「いつもじゃん」
光流は平然として流した。
「いつも?」
「いつも」
ええ?と思いながら顔を俯けた。航さんの顔が見たい。ちょっと離れた後ろにいるはずなんだけど…。
「後ろ向いていい?」
「ダメ」
光流にダメ出しされてむっと口を尖らせた。
これじゃ本当に子供だ。
はぁ、と溜息を吐き出すと光流に笑われる。
「不安?心配?落ち着かない?」
「…そうじゃないんだけど…」
「親から離れた子みたいだよ?」
「……分かってる。…まるきり子供みたいだって自分でも思う」
光流は唯に触れないように少し距離を保って歩いていた。それは自分の為じゃなくて唯の事を思ってというのも分かっている。
「いいんじゃない?何も考えなくても甘えられる存在で」
「………叔父さん取っちゃってごめん」
「ああ?いらねぇし!いくらでも持ってっていいって。唯にあげるよ?」
「…あげるよって…物じゃないのに…」
光流から許可が出たからといってじゃあ貰う!と言えるはずない。
どう、なんだろう?航さんの事を考えるけれど自分でもよく分からない。
「聞こえないから…特別ではあるんだけど…」
「まぁ…そうだろうね。今までないんでしょ?」
「…うん」
「なんで叔父貴だけそうなんだろうね」
本当に…。どうして航さんの声だけ聞こえないのか不思議で仕方ない。でも唯にだって分からないのだ。
「じゃあ昼休みと休み時間の教科書持って来る時に顔出すけど」
「うん」
唯の教室の前で光流と別れた。
自分の席について航さんはいるのだろうか、と外を眺めた。
それからメールしなきゃ、と携帯を取り出す。
学校は携帯は禁止ではないけど届出をして学校内では電源を消しておくというのが条件だった。勿論そんなの守ってるやつなんていなけど、授業中に鳴ったら言い逃れできないから授業中は消しておくのが普通だ。
件名に唯です、と入れてから本文を打ち始める。
携帯の番号は昨日かけたから多分航さんの携帯にも履歴が残っているはずなので、文だけにした。
なんか自分の事で航さんと小木さんに随分と迷惑をかけている気がする。ターゲットに、と言ってたけど本当かどうかも分からないし、心変わりするかもしれないのに航さんと小木さんが唯の為についているのだから。
メールの文面を何にしようかと悩んでしまう。
教室に着きました。航さんと小木さんには迷惑をおかけしてしまって申し訳ないです。でもすごく安心できます。
ずっと接触してから悩んでばかりいたのですが、言ってよかったと思っています。
本当にありがとうございます。小木さんにもお伝え下さい。
唯
打った文面を見直していいかな、と送信ボタンを押した。
ちゃんと届くだろうか…?返信はくるのかな…?
ドキドキしながら待った。
教室の黒板の上にある時計を見てまだ始業時間まで早いから、チャイムが鳴る前に返事来ないかな、と唯は期待して携帯を手に持っていた。
返事が来ないかもしれないのに…どうしても期待してしまう。
ヴー、と携帯が震えてどきんと心臓が跳ね上がりながら慌てて受信したメールを開いた。
迷惑だなんて思っていないから余計な事考えないように。
安心して授業受けなさい。
航さんからの初めてのメールだ!
すぐにはい、とだけ返事を返した。
嬉しい!と携帯を眺めて顔が緩んでいると加藤がじっと唯を見ていた。
「相手誰?武川?」
「武川…光流?ううん、違うよ?」
航さんも武川だけど。
「……武川とくっ付いたって本当?」
「は?何それ?」
きょとんとして加藤を見た。
「なんだ…違うんだ?」
「くっ付く?」
「お付き合いが始まったとか、武川の家に泊まったとか」
「はい?あ、泊まったのは本当だけど、お付き合いって…男同士なのにそれはないでしょ」
「………なるほど」
加藤がくっくっと笑っていた。
「男同士でもお付き合いできると思うけど?」
「ああ…まぁそうだろうけど…」
自分には無関係と唯は肩を竦めた。
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