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追憶の彼方には戻らない 28

 「あの…薬って…薬は主治医から…みたいな事言ってた。あと遺体を運んだのは自分じゃなくて誰か人に頼んで…また頼もうって…。今度は近くじゃなくて遠くに放置しようって…」
 重要だろう事を告げていく。
 「…あとは?」

 「あとは…その…僕が…どうなくのか…とか…」
 しどろもどろに唯は答える。
 「………犯すつもりか?」
 航さんが低い声で聞いて来た。

 「…そう…みたい…。その、抱く時も…殺す時もどんな風になくか、って…」
 唯が顔を俯け、体を小さく縮こめて声も小さく告げると航さんがぐいと唯の肩を抱き寄せた。
 「安心して。そんな事は絶対させない」
 「……ん」
 航さんの声が近くてどきっとしてしまう。

 航さんは唯の事をよく触ってくれる。きっと唯が航さん以外の人に触れないから…だからきっとスキンシップを多めにしてくれるのだろうと思う。
 「もしもし」
 航さんは右手を唯の肩に乗せたまま左手で電話をかけ始めた。

 相手はきっと光流のお父さんだろう。そういえば昨日は帰ってきていなかったみたいだけど…。事件の事で忙しいのだろうか?
 航さんが唯の頭の傍で声を出してたった今唯が聞いた事を報告している。
 薬というのは睡眠薬か何かだろうか?
 医者からと言ってたんだからきっとそうかも、と唯は一人で納得する。

 航さんはその外にも実際に唯が言葉を交わした事、来週近づくために動くらしいみたいな事も報告して電話を切った。
 「叔父貴、これって囮と同じじゃねぇの?」
 電話を切った航さんに光流は助手席から硬い声で言った。
 「あの!光流!いいよ。僕が役立つならそれで僕はいいんだ」
 「だって!」
 光流が後ろを振り返って唯を見た。

 「光流くん、証拠が出ないんだ…」
 運転していた小木さんが声を絞り出すように言った。
 「だから唯を使う?」
 「光流!あの…本当にいいんだ。かえって僕は嬉しいし」
 「…唯」

 「だって今まで…この変な能力のせいで…友達も誰もいなかったんだ。親にだって気味悪いって思われてるのに…だから…そんな僕がこれで役にたてるなら本当に…それでいいんだ」
 「唯」
 光流がちょいちょいと手で唯においでおいでするので何?と顔を近づけたらぐい、と唯の頭を抱え込むようにされた。
 「光流っ」

 〝俺は大丈夫だから〟
 「友達、な?」
 そしてぱっと光流が手を離して拳を差し出してきて唯がこつんとそれに合わせた。
 「俺は唯と触っても別にいいんだけどな」
 「…僕が嫌」
 なるべく人の思ってる事を聞きたいとは思わないし、そんなの趣味悪い。

 「あのね。光流も警察に入るんでしょう?」
 「一応そのつもりだけど」
 「だったらいっぱい僕使ってね。どんな事だっていい。こんな変なのが役立つなら」
 そして航さんを見た。航さんからは何も聞こえないしどんな風に思っているのか全然分からないし表情も変わらないのでどう思っているのか唯には分からないけれど今日の接触だって歓迎していないだろうとは思う。

 「航さん、僕大丈夫」
 「……ちゃんと守る」
 うん、と小さく頷くと今度は航さんが唯の頭を抱きかかえてくれる。
 それが嬉しくて…ちょっと泣けてきそうになる。

 光流も航さんも優しい。一人でどうしようと思っていた事から考えれば今の状態は物凄く画期的な事だ。理解してくれる人ができるなんて思ってもいなかった。そしてこんなのが役に立つなんて思ってもみなかった。
 「僕…ほら、光流のお父さんにバイトって言われてるし。お仕事って事でしょ?だったらいっぱい役たちたいし」
 「唯くん…いい子だねぇ…」
 小木さんが運転しながらしみじみと呟いた。

 「いい子じゃないですよ。全然。……航さんに甘えてるの分かるし…あのすみません…」
 小さく航さんに謝った。
 「いや、だって先輩のだけが聞こえないんでしょ?不思議だけど…唯くんは先輩に甘えていいよ。それはいいんだけど…先輩がちょっと危ない人になってるよねぇ?光流くんもそう思わない?」
 「思う」

 どこが?
 唯が首を傾げ、航さんに視線を向けたけど、航さんの表情は何も変わらないし、それに対して航さんは何も言わなかった。
 いいけど犯す、って男なのに…どういうことなのだろう?と犯人の言葉を思い出し唯は頭を捻った。あとで光流に聞いてみよう。
 なんとなく航さんには聞けない…。

※mm3さんいつもお気遣いありがとうございます~^^
 
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