航さんのマンションに寄ると三人で駐車場から航さんの部屋に行った。
唯を車に残せないからという理由らしいけど、小木さんは口元をずっと緩めていた。
「過保護っすよ?先輩」
「………」
エレベーターの中で小木さんがにやにやしながら言い、航さんは無言。唯はどう反応していいのか分からなくて顔を俯けていた。
「…万が一があっちゃいけないだろう」
「そうですけどね。どうやら人を使って、が得意な野朗らしいですからね」
航さんには何回も電話がかかってきていた。唯の聞いた話から色々調べが進んでいるらしい。詳しい事を唯に教えられる事はなかったけれど、主治医という医者についてやその他の事に関しても報告されているらしいというのは電話の会話で分かった。
航さんのマンションもセキュリティがちゃんとしているらしくエントランスに入る前にも暗証番号が必要な位らしい。駐車場からのエレベーターもそうで、そんなの見た事なかった唯は単純にすごいなと思ってきょろきょろしてしまう。
光流の家もセキュリティの会社と契約されているらしく何か異常があれば警備員が飛んでくるらしい。
つくづく唯とは次元の違う住まいだなと思ってしまう。
「すぐ用意するから待ってろ」
航さんの部屋に着くと唯はリビングのソファにちょこんと座り、小木さんは立ったままで航さんは別の部屋に消えていった。
「唯くんテレビでも見る?」
「いえ…」
「まぁね。面白いテレビなんてないと思うけど」
時間はまだ夕方だ。もうすぐ6月になろうとしている今は日も長く、まだ夕方とはいえないように陽射しが強かった。
航さんの部屋は最上階だった。マンションなのに唯の家のリビングよりも広い。家具が黒が基本らしく、立派な革張りの大きめのソファも黒だった。座っている唯の体が沈んでしまうのではないかというようなソファだ。
座り心地もいいし、ここで寝たら気持ちよさそう、なんて余計な事を思ってしまう。
大きなテレビもDVDとか見たら迫力ありそう…。光流の家のテレビも馬鹿でかかったし、元から生活水準が違いすぎるのだろう。
観葉植物なんかも置かれて見た目にはモデルマンションだ。ここで生活してるなんて見えない感じ。
「相変わらず生活感がうっすい部屋。唯くんもそう思わない?」
「……思います。航さん…ここ住んでるの?」
「住んでるよ。もっとも寝るだけに帰ってくるみたいなものらしいけど。署に泊り込む方が多いかもね」
「…そうなんだ…」
「さっきのさ。ほら先輩がどこかに…って。遊び連れて行ってもらいなよ。唯くんが安心して触れるのって先輩だけなんでしょ?それに先輩のためでもあるかな~」
「え?航さんの…?」
「そ。あの人休み取らないから。休みって言って署にいたりするし。仕事大好き人間だからね。デスクワークは嫌いらしいけど、現場大好きだから」
小木さんがくっくっと笑っている。
「だからわざわざノンキャリア組だしね。出世より現場の人」
光流のお父さんもそういえばそう言っていた。
「警察のエリートだよね…。知ってる?先輩のお父さんも警察だよ?光流くんのおじいちゃんに当たる人」
「そうなんですか?」
「そう。で、光流くんもそのつもりでしょ?どんだけぇって俺からしたら思うけどねぇ。だから。唯くんがどこかに連れてってとでも言ったらまさか仕事しながら、はないだろうから。先輩休ませる為にも唯くんが我儘言ってくれた方がいいかな、って俺は思うわけ」
「……そう、なんだ…」
「そう。唯くんお願いね。俺にとってはかなり切実な願いでもあるんだけど」
「え?」
「だって俺先輩とコンビでしょ?何回休み潰されたか……」
はぁと小木さんがソファの背もたれに手をついて溜息を吐き出している。航さんの休みのお願いは小木さんにとっても重要な事だったらしい。
「だからいっぱい先輩に休みとらせて?先輩があんな事言うの初めて聞いた。だから唯くんお願い!」
ぱんと手を合わせてお願いする小木さんに思わず笑ってしまう。
「笑い事じゃなくて!ホントに!事件終わったら絶対先輩に言ってね!俺このままじゃ彼女にふられる…」
そういえば小木さんには彼女と危ないって…。それじゃ本当に切実だな、と思ってしまう。
「……考えておきます」
「よろしく!」
ぽんと軽く小木さんが唯の肩を叩いて来た。その時に聞こえた声もお願い!で唯は笑ってしまいそうになった。
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