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追憶の彼方には戻らない 35

 「で。どうなの?唯の情報からいけそうなんだろうね?」
 光流が航さんと小木さんをじっと見ながらそんな事を言った。
 「光流くん…簡単に言ってくれるけどねぇ…」
 小木さんが苦笑しながら額をかりと指でかくと光流はじっとりとした目を小木さんに向けた。

 「……決定的な証拠なんも見つかんないんだ?警察は一体何してんの?」
 「いやぁ……」
 「唯が怖い思いしながら重要な事聞いてこんなに協力してるのに」
 「…面目ないです」

 小木さんが光流の横で小さくなっている。なんか光流の方が上司みたいなんだけど…いいのかな?とちらっと航さんを見ると航さんが唯の視線に気づいて顔を見るとふっと笑いを漏らした。
 「唯が心配なんだろ」
 「勿論でしょ。このままだと唯はまた接触しなきゃないだろ。不甲斐ねぇな…警察」
 光流が舌打ちしながら言うのがおかしくて唯はくすっと笑ってしまった。

 「叔父貴も小木さんもついてるから唯に何か起きるなんて事はないだろうけど…」
 「怪しいのは分かってる。繋がりもあるだろう事は分かっている。だが証拠がない状態だ。明日明後日の土日で何かつかめればいいのだが…」
 航さんが小さく呟く。

 「いいよ。あの…僕で役立つならいくらでも…接触したっていいし…」
 「…進捗状況によって、だ。俺だって唯を危険な目に合わせたくはないし、本当は唯だって好きこのんでやつの声を聞いているわけじゃないだろうし…」
 「本当だよ。ほんっと唯っていい子だよねぇ」
 「いい子って…光流と同じ年なのに…」

 光流の言い方に唯はがっくりしてしまう。確かに見た目からだと唯は光流よりずっと下にみえてしまうけど…。見た目はどうであれ同じ年なのに。
 「とにかく何でもいいから証拠さっさと見つけてよね。唯、ゲームでもしよ。おいで」
 光流がそう言って立ち上がったのを見ていいのかな?と航さんに確認の視線を向けたら航さんが遊んでおいで、と唯の背中をポンと叩いたので唯はこくんと頷いて光流の後ろをついて二階の光流の部屋に入った。

 「…ったく!さっさと捕まえればいいのに!」
 「…だって証拠ないんでしょ?」
 「唯が聞いたのを証拠で出せるならいいのにね!」
 「無理だよ」
 光流がゲームをセットしながらぶつぶつと呟いている。

 「分かるけどねぇ…。証拠なきゃ頭いいから逃げられるだろうし…。確固たる証拠を揃えてじゃないと…無理なんだろうけど。分かるけどイライラするぅ!唯が危険なのに!」
 「大丈夫だよ。まだあの人は別に僕をどうこうしようとは今の所具体的に考えてないし。航さんも小木さんも光流もいてくれるし全然平気」
 「唯!」
 がばっと光流が唯に抱きついて来た。

 〝可愛い!叔父貴には絶対勿体ねぇ!守ってやらないと!〟
 「あっ!光流っ!」
 どん、と唯は光流の体を押して離す。
 「あら。聞こえた?」
 「……聞こえるに決まってる…」

 「だよねぇ。で?唯って叔父貴の事どう思ってんの?まだ分からない?」
 「…分からないよ。…でも物凄くドキドキする時はあるけど…」
 「ええ~……やっぱ好き?」
 「好きは好きだよ。特別でもあるし」
 「ま、そうだよね。特別…だよな…なんで叔父貴のだけ聞こえないのか…。俺だったらよかったのに」
 光流がむぅっと口を尖らせてゲームのコントローラーを一つ唯に渡して来た。

 「唯ってゲームすんの?」
 「するよ。だって出かけるとかしないから…時間つぶしにね」
 「………」
 光流が小さく嘆息した。
 テレビの前に二人で並んでゲームを始めた。
 「あ、そうだ…光流に聞きたい事あったんだ」
 「何?」

 目をテレビに向けたまま唯が言うと光流もテレビを見たまま答える。
 「ええと…その犯すって言ってたでしょ…?」
 「ああ?…ああ…犯人?」
 「そう。あの僕男だからどうやって?と思ったんだけど」
 「………は?」
 光流が顔を唯に向けた。

 「あ!死んだ!」
 光流がテレビ画面でgame overのテロップが出たのに声をあげる。
 「くそっ!唯が変な事言うから!」
 「…ごめん」
 「いやいいけど……。唯知らないんだ?」

 「知らない。だって…女の人じゃないし…そんなの…できないでしょ」
 「うーん…。まぁどうやったって妊娠することないねぇ」
 そんなの当たり前だ。
 光流はコントローラーを置くと腕組みしてうーんと呻っている。

 そしてちらっと唯を見た。
 「…知りたい?」
 「…まぁ…」
 うーん、とまた光流が呻った。
 
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