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追憶の彼方には戻らない 37

 それから夕飯に呼ばれるまで光流とゲームして遊び、ご飯よと光流のお母さんに呼ばれて階下に下りると航さんが戻ってきていたらしくダイニングの席に座ってテレビを見ていた。
 「なんだ叔父貴帰って来てたんだ?」
 「今さっきな」
 航さんの姿に唯はほっとした。

 どうしてもやっぱり航さんの姿がないと不安というのでもないけれど心寂しいような感じがしてしまう。
 航さんの声が聞こえないので触っても安心できるという所と助けてくれたというのが唯にとっては絶対になっている気がする。

 今日の母親の所に行ったのだって自分だけだったらうまく説明なんか出来なかった。ほとんど全部航さんが説明してくれ、唯は顔を俯けていただけなのだ。

 航さんと並んでご飯をいただくけれど、光流の家に迷惑だよなと唯はどうしたって気にしてしまう。
 そんな唯を航さんも光流も気づいて、お母さんにも遠慮しないでと言われる始末で、かえって気遣わせてしまって申し訳なくなってしまう。
 やっぱり家に帰った方が、と思うけれどそれだと今度は小木さんと航さんはゆっくり出来ないしと四面楚歌の気分だ。

 「夜は仕方ないから勉強でもする?」
 「うん。あの…教えて?」
 新入生代表の挨拶もした光流は頭がいいのだろう。
 「いいよ。唯の得意なのは?」

 「文系。理数系はちょっと…」
 「じゃ理数中心にしよっか」
 唯がこくりと頷くと光流が笑みを浮かべている。
 「あ~!学校で自慢したい!」
 「なぁに?唯くんの事?」
 お母さんの声がキッチンの方から聞こえる。

 「そ。ほら唯って可愛いのに誰ともあんまり話しなかったし注目されてるから。話したり一緒帰るだけでも視線が突き刺さるんだけど!こんな可愛いとこ見せたらやばいよね」
 「……可愛いって…男なのに」
 少しむっとしながら唯が呟く。

 「そうだけど!ああ、別に女の子みたいに可愛いって言ってんじゃないよ?ちゃんと男って分かってるんだからね!」
 …本当だろうか、とちょっと胡散臭い気がする。まぁ学校に女の子だっているし代わりにされるわけじゃないだろうけど。
 「……共学でよかった」
 ぼそりと低く航さんが呟くのが唯の耳に聞こえてきた。

 ……男子校だったら女の子代わりにされてたって事だろうか?そんな事を思われるのはちょっと面白くない、と思ってしまう。いくら航さんにだって、だ。
 頼りないだろうし、体だって小さいしだけど唯は女の子のつもりは一つだってないのに。そりゃ光流や航さんは背も高くて顔もキリッとしてるし男らしいけど、別に唯だって小さい頃は別としても今は女の子に間違われる事もないのに…。

 「……唯?…怒った…?」
 光が向かいの席から窺う様に目を向けてきたのが分かった。そして隣に座っていた航さんもちらっと視線を唯に向けてきた。
 こんな事で怒る、なんて言うのも自分がさらに小さい感じがするので面白くない、と思いながらも首を横に振った。

 「……別に…怒ってない」
 「……唯~」
 怒ってはない。ちょっと情けないかな…とは思うけど。
 顔をあげたいのに却って顔を俯けてしまう。さらにじわりと目が潤んできそうになったのに自分でも驚いた。

 航さんにまで情けないやつって…女みたいだと…思われていたのだろうか?なんかそれが…悲しい。
 そんなつもりで言ったんじゃないのかもしれないけど…。
 そういえば犯人にも犯すとか言われて、という事はやっぱり女の子の代わり?
 そんな事思われるのが悔しい。きっと光流みたいだったら犯人だってそんな事思うはずもないんだ。

 「唯…?…どうした…?」
 航さんが手を伸ばして唯の腕に触れてきたけれど唯は俯いたまま首を横に振った。
 「…なんでもない…です…」
 ちょっと悲しいだけだ。でも人の家に世話になっているのに…泣き言も言えない。光流も航さんも親切でこうして唯を連れてきてくれたんだから…。

 顔が歪んできたが唯は必死に口を引き結んで涙が出そうになってきたのを我慢する。
 泣いたりなんかしたらますます航さんに情けない奴と思われるかもしれない。女みたいって…、だから犯人に狙われるんだって…思っているのかもしれない。

 守ってくれる、とは言ってくれたけど航さんにとっては勿論仕事でもあるし…それは航さんの中では当然なんだろうけれど…。
 唯は顔を俯けたまま航さんの方から顔を背け、口元を押さえて気持ちが落ち着くのを待った。
 こんなの我慢すればいい。嫌われたり、化け物扱いされた事に比べれば些細な事なんだから。

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