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追憶の彼方には戻らない 41

 航さんの役に立つように…って…ずっとそればっかり考えてる。
 唯はくりんとうつ伏せから仰向けに体を反転させた。
 航さんは特別だから…。唯にとっては今の所唯一の人だ。
 いいけど…航さんには迷惑だよね…。

 はぁ、と唯は溜息を吐き出す。
 そして航さんに言われた事を思い出し少し落ち込む。
 航さんには女の子みたいって思われてるのだろうか?光流に同じような事を言われてもそこまで気にならないのに航さんから言われれば馬鹿みたいに気にしてる。

 「女の子じゃないのに…」
 そういえば荷物も持ってくれていた。…という事はやっぱり女の子扱いだったのだろうか?
 はぁ、ともう一度溜息を吐き出したらドアにノックの音が聞こえた。
 「はい」
 唯が返事をしたらドアが開いて航さんが顔を覗かせた。

 「…ちょっといいか?」
 「あ…はい」
 唯は半身ベッドに起き上がって正座すると航さんがベッドに近づいてきて端に腰かけた。
 「あ、…昨夜は…あの…すみませんでした」
 半分覚醒はしていたけどベッドの上で眠ってしまっていた唯を航さんがベッドの中に入れてくれたんだった、と朝もお礼は言ったけど何度思い出して恥かしくなる。
 ホント子供と一緒じゃないか…。

 「ん?ああ…いやいいよ。疲れたんだろう?」
 小さく唯は頷いた。
 疲れたのもあったし、安心したのもあったのだと思う。
 つっと唯はベッドに腰かける航さんに視線を向けた。

 航さんが目の前にいる。広い肩幅で腕もがっしりしてて何度その腕に縋ったんだろう。今も触れたくて一瞬自分の手を伸ばしかけたがすぐに唯は手を引っ込めた。
 自分から安心して触れられるのは航さんだけだけど、そんなにそんなにずっと触っているわけにはいかない。
 ダメダメと自分に言い聞かせる。

 「お母さんが心配していた。…顔、見ていないだろう?」
 「………怖くて…見られなかった…」
 唯は顔を俯け小さく呟いた。
 「心配…」
 信じられるような、られないような…という感じだ。

 「疑ってるわけじゃ…ない…けど…」
 航さんが俯いていた唯の頭に手を伸ばしてよしよしと撫でてくれる。
 「心配してたよ。親なんだから当たり前だ。唯の身に危険が降りかかっているんだから」
 「でも…そっちじゃない…心配かも…」
 唯は顔を上げて航さんの顔を見た。

 唯の事がバレた心配の可能性だってある。
 「違う」
 すぐに航さんは唯の言いたい事に気づいたらしいが、航さんは真っ直ぐ唯の目を見て静かに諭すように言った。
 「唯の危険について、だよ。何度も俺に大丈夫か、と確認してた」
 航さんがわざわざ嘘をつくなんてしないだろうからそれは本当の事なのかもしれない。

 「……そう」
 唯はまた顔を俯けた。
 「唯の事をよろしく、と頼まれたよ。何度も…」
 そうなんだ…と唯は頭で理解してもどうしても穿った思いを浮かべてしまう。

 自分が親に今まで迷惑かけているのは自覚してる事だ。
 航さんが唯の頭から手を離した。それがほんの少し心細く感じてしまう。航さんに触れていてもらえると自分が普通の人だと思えるんだけど、離された途端に拒絶されたように思えてしまうんだ。
 …勿論そんな事ないのも分かってる。

 「さっきの…」
 航さんが小さい声で唯にだけ聞こえるような声で囁いた。
 「別に唯を女の子扱いをしたわけじゃないぞ」
 ああ、…食事の時の事か、と唯は自分がむくれた事を恥ずかしく思ってしまう。
 「べ、別に気にして…」

 「気にしただろう?すまない。言葉が足りなかった。昨日駅で他校生に絡まれただろう?ああいう事が男子校では多いだろうから…だからよかった、と思っただけだ」
 わざわざ航さんが釈明してくれるのが唯にはいたたまれない。自分が勝手に僻んで凹んだだけなのに。
 恥ずかしくて唯は顔を俯けたまま自分の頬を手で挟んだ。
 「心配しただけだ。他意はないよ」

 「そ、…そんな事…わざわざ…」
 言ってくれなくてもいいのに。
 「いや、唯に顔を見てももらえなかったのがちょっとショックだった…」
 「そ、そんな…」
 ショックだなんて大げさな…。

 航さんにそんな事言われてかぁっと顔が熱くなってくる。
 「唯は一見、おとなしそうだし儚げな感じに見えるけど、強いよ。犯人に対しても物怖じもせずに向かっていくし、俺に話をしてくれた時もそう。自分だけの事を考えるような子だったら自分かわいさにわざわざ犯人を言わないだろう。…小木も尊敬する、なんて言ってたけど俺もそう思う」

 「そ、そ…」
 そんな…。
 褒められる事に免疫のない唯は心臓をばくばくさせながら体を小さく縮めた。
 
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