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熱吐息 agitato~激して~3

 今日は上司同士が外に出てしまって残った斉藤と瑞希は昼食をとりに外に出てきた。安いイタリアンの店に入った。
 「なんか歓迎会やるらしいぞ」
 唐突に斉藤がそう言ったのに、ああ、と瑞希は気がつく。会社に入ればつきあいとかが出てくるのか。
 「…そうなの?出なくてもいいのか…?」
 「まさか。だめだろ」
 はぁ、と瑞希は嘆息する。
 「お前女達にも注目されてるから、餌食にされそう」
 瑞希は眉を顰めた。
 「それはないだろ」
 「あるって。将来有望だし」
 「………」
 はっきりいって迷惑だ。
 飲み会とか他の事もきっと会社に入ったら色々あるのだろう。
 仕事で会社にいる分にはいいけれどその他の時間を割きたいとは到底思えない。
 宗といたほうがいい。
 けれど新入社員歓迎会で出ないわけにはいかないだろう。
 「あのさ……」
 「何」
 斉藤が言い難そうに口を開いた。
 「小学校の時」
 瑞希は食事に伏せていた顔を上げた。
 「急に、その…瑞希をさけた、だろ」
 「そうだね。別にもうどうでもいいけど」
 「いや!あれは…その…瑞希が…」
 「名前やめてって言ったはずだけど」
 「わり…」
 名前を呼んで欲しいのは宗だけだ。
 「その…男なのに、綺麗で…好きになりかけて…自分がおかしくなったんじゃないかと…思って…」
 「…………」
 瑞希は斉藤を見てため息を吐き出した。
 「…別にいい、と言った。それにそんな事ここで話する内容でもないと思うけど?」
 「あ、すまん」
 何がいいたいのか。
 声は小さいし周りは昼時でざわついているから誰も気にしないとは思うけれど。

 瑞希は興味をなくして食べるほうに集中する。
 夜ご飯は何にしよう?
 宗は何も文句言わないけれどいいのかな、と瑞希は料理の味にどうしたらおいしく作れるかと神経を向ける。
 「なぁ、…そのさ…好き、になってもいいか?…男だけど…」
 「………は!?」
 瑞希は顔を上げ斉藤を見た。
 「やっぱり気の迷いじゃなかったみたいだ…」
 「迷惑。無理」
 一回自分を見捨てて離れた奴になど用も信用もない。
 瑞希はきっぱりと言った。
 「そんな事言うなら二度とこうして昼食うのもやめる」
 「……いや、もう言わないから…。だよな…すまん」
 …これは宗に言った方がいいのだろうか?
 いや、斉藤がもう言わないというならわざわざ言う事もないか。

 「歓迎会金曜らしい。土曜は休みだからそうなるだろうな」
 話題を変えてきた斉藤に分かった、と頷いた。
 瑞希は酒を飲まないし、飲む機会もなかった。ホストやってた時だって自分は飲んでないから。それに強くもないので自分から進んで飲むなんて事はしなかったのだが、これから付き合いでという場面も出てくるのかもしれないのに辟易する。
 会社に入ったばかりでそれでなくても神経が磨り減っているのに好きでもない場なんて苦痛でしかない。
 宗とどこかに行くなら全然苦痛じゃないのに。
 ただ宗と出かけるのは苦痛じゃないけど、なんでも宗が払おうとするのに困るだけだ。
 
 昼休みが終わって会社に戻ると斉藤が言っていた通りに新入社員の歓迎会があるからと強制参加だと告げられる。
 会社の仕事を終えてから行くらしい。
 営業と人事と総務の3課でらしく、同じフロアに3課いるのでそのせいだろう。
 会社全部だったらとんでもない人数になってしまうから課ごとでするのだろうけど、それでも大人数になるだろう事はフロアにいる人数を見ても分かる事だ。
 はぁ、とため息を吐き出す。
 胃が痛い。
 静かに大人しく、ただ働いて稼げればいいのに、余計な事が多い。

 人の関係も見ていると色々見えてくる。
 上司の関係。
 女の男を見る目。
 同期の関係。
 ライバル意識。
 どれも瑞希にとってはあまり好ましくない。
 宗の所でやっていたようにパソコンに向かっているのが一番精神的に楽かもしれない。
 今だってパソコンの業務を覚えるのが先決なのだが、どうもそれだけですまない。
 声をかけられたり、雑用を頼まれたり。
 そのせいで仕事が出来ないなんて評価されたら最悪だ。
 斉藤の視線をちらちらと感じればまた嫌になってくる。
 ……早く宗の待つ家に帰りたい。

 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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