「唯くん」
食事を終えてお母さんが片付けをしている間に光流のお父さんにリビングに来るように言われてついていくと航さんも一緒に来てソファに座り、その隣に航さんに目でおいでと指示されてちょこんと航さんの隣に唯が座った。
「今必死に証拠を集めている所だ。だがそれがどうも芳しくない」
唯は向かいに座った光流のお父さんの顔を見た。
「あの…僕でいいなら…いくらでも協力します。来週…あの人は学校帰りの電車の時間帯に乗るような事言ってたし…」
「…今日と明日の二日間でどうにかしたいと思っている。だがもし上手くいかない時は…」
「兄貴!」
航さんの鋭い声。
「航さん…いい。僕で役立つなら本当に…いくらでも協力します」
唯はきっぱりと顔を上げて言い切ると光流のお父さんが唯を見てゆっくり頷いた。
「航、唯くんを」
「分かってる」
「証拠…ってどんなのが…」
「凶器は唯くんの言ってた通りに公園から出たがそこからのアシがつかない…。一番いいのは爪なのだが…」
「……剥がした…爪…持ってる…?」
爪の事は言っていたがそれをどうしたかまでは犯人は言ってなかった。
「ああいう知能犯は証拠を持っているはずだ。警察を馬鹿にしている犯行だからな。それが分かっていても何も証拠も確信もないうちは手出しできない。下手に手出しして隠滅されたらかえって面倒になる」
苦々しそうな顔で光流のお父さんが吐き出した。
「僕はいつでも…いいです」
「すまないね…」
唯はすまなそうにする光流のお父さんに首を横に振った。
「僕で役立つなら…本当に嬉しいです。今までこんなのが役立つなんてなかったから…」
すると航さんがそっと唯の背中をぽんぽんと優しく叩いてきた。
ぱっと航さんに視線を向けて笑みを浮べる。
「じゃ私は行ってくる。今日と明日で出る事を願うよ…。唯くんはうちでゆっくりしてなさい。航は唯くんを」
「……はい。ありがとうございます。…ええと…いってらっしゃい…?」
「いってくるよ」
光流のお父さんがくすくすと笑いながら立ち上がり、光流のお母さんに見送られて行ってしまった。
忙しいんだろうな、と思う。航さんだって本当は忙しいんじゃないのだろうか…?
「あの…航さんは行かなくていい…の?」
「俺の任務は唯の身辺警護」
そうかも、だけど…なんか申し訳ない気がしてしまう。そんな仕事なんて…。
「気にしなくていい。かえって休みな感じで楽だからね」
航さんが唯が気にしないようにそう言ってくれるのか、本当にそう思っているのか唯には分からないけれど唯が考えても仕方のない事だ。
「いいけどいい加減光流を起こすか…。あいつは放っておくと夕方まで寝てるぞ」
「ええ?」
唯が驚いて目を丸くしてしまうと航さんが笑っている。
「本当だぞ」
「…でも寝たいなら寝てても…」
「じゃあもう少しだけ寝せておくか…。起きたら起きたであいつはうるさいからな」
航さんの声がすぐ横から聞こえるのにどきどきしてくる。
それに昨夜航さんに抱きついて泣いてしまったことも思い出して恥ずかしくなってきた。それに好きとか…光流にいわれたキスとか…。
うわぁ、と唯は段々赤くなっていくのを自分でも感じる位だ。
「唯?」
航さんが唯の顔を見ているのが分かったけれど、唯は視線を航さんに向ける事が出来ない。
航さんの視線から逃げるように顔を航さんから背けた。
「ひゃっ」
背けたと思ったら航さんの手が唯に伸びてきて唯の額に触れた。
「熱……でもない…?」
「ち、違いますっ。その…昨日…泣いちゃったし…恥ずかしいだけ…」
消えそうな声で訴えると航さんがふっと表情を緩めたのを感じた。
「恥かしがらなくていいよ」
いいよ、って言われてもそんなの無理に決まってる!
けれど航さんはそれ以上何も言わないでテレビのリモコンに手を伸ばしてテレビをつけた。
こういう所が大人だ、と思ってしまう。
テレビでは事件の事はもうあまり報道もしていなくて、さらりと進展がないような事を言っただけだった。
「早く…掴まるといいな…」
唯が小さく呟くと航さんが背中をポンとまた優しく叩いてくれた。
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