土日とも出かけずに唯は光流と一緒に光流の家でゲームしたり勉強したりしながら時間を過ごした。本当は光流は土日に道場通いをしているらしいけど、休み休みと笑っているのが申し訳なかったけど…。
航さんはパソコンいじったり電話とか、どちらも仕事で、事件についてだったらしい。
そして結局土日の二日経っても犯人に関する有力な証拠は出ず、だった。
「おはようございます」
月曜日の朝、もう目覚めた時に目に入る天井で光流の家だとすぐに分かるようになっていた。慣れるのが早いなと思いながら着替えをして階下に向かう。
「おはよう」
航さんはすでに起きてい新聞に目を通していたが唯の気配に顔を上げると優しい声と表情を向けてくれる。光流のお父さんはまだ帰ってこられないらしく姿はなかった。
「おはようございます」
洗面所で顔を洗って歯を磨いて…。
「光流起こしてきます」
「助かるわ~」
光流のお母さんの声に仄かに笑みを浮べながら唯は二階に上がった。
「光流、入るよ…?」
光流の部屋をノックしたって返事がないのはもう分かっているのでドアを開けて部屋に入った。
こんもりとベッドが山を作っている。
「光流」
ゆさゆさとベッドの山を揺すっても光流は全然反応がない。
こんなにぐっすり寝られるのもすごいなと思いながら声をかけて揺さぶった。
「んん……」
「光流?起きて」
「ぁあ……ん…唯…?」
「うん。起きた?」
「……んー……もうちょっと…」
「だめ。起きて」
ゆさゆさと布団の上から大きく揺さぶると仕方なさそうに光流が顔をごしごししながら半身を起こした。
「起きたね?」
「……多分」
大きな欠伸をしながら答える光流に笑ってしまう。
笑うのもずっとなかったのに…。家でだって話なんかほとんどしないし、学校でだってそうだったのだから。笑うもなにもいつでも自分は世界に一人ぼっちでいる気分だった。
それが光流といると笑ってしまうし、航さんといると優しい気持ちになる。
そんな風になるなんて思ってもいなかった事だ。
「光流…ありがとう」
「んん?何が?」
「うん…僕って笑えたんだなぁ、と思って」
光流が寝ぼけていた目をちゃんと開けて唯に視線を向けた。
「唯…可愛いっ」
「ちょっ…ダメだってば!」
光流がベッド傍に立っていた唯の腕をぐいっと引っ張って頭を抱え込むようにして来たので逃れようと慌てると光流はすぐに手を緩めてくれる。
「もうっ!」
「起きたから大丈夫」
光流が笑いながらそう言ったので唯はまた階下に戻った。
読まれるのが分かってても光流の態度に全然変化はないし、今みたいにわざと唯に触れてくる。だからといって余計なくらいに触れてくるわけじゃなくて、これは光流からの大丈夫だよのサインだ。
親でさえも唯に触れるのを怖がっているのに…。
「唯くんいると光流起こしてくれるからすごく楽~!」
光流のお母さんが笑っていた。
「本当に毎朝起こすの大変なのに!」
光流のお母さんは詳しい事情も分からないのに何も言わないで唯をただ受け入れてくれている。
「すぐ起きたか?」
ダイニングで航さんの隣に座った唯に航さんが笑って聞いて来た。
「うん。わりと」
「俺なんか蹴ったって起きやしないぞ。アイツは」
くっくっと航さんが肩を揺らしていた。
広い肩もなんでもただ座っているだけなのにかっこいいなぁと朝から唯は航さんを見てそんな風に思ってしまって顔を俯けた。
だって考えたわけでもないのに好きだなぁ…と自然に思ってしまったんだ。航さんを見ただけでそんな事を思ってしまったのが一人で恥かしくなって航さんの顔も見られない。
聞こえないから特別でそう思うのだろうかと思っていたけれど、そんな事関係なしに自然に好きという感情が湧いてきたのが恥ずかしい気がした。
いくら唯が自覚したって航さんの相手になんかなれるはずもないけれど…。
航さんは大人だしかっこいいし、頼りになるしもてないはずない。
光流情報で今は彼女がいないらしいけど、結婚を考えてたっておかしくない。子供だし、男だし、唯が間違ってもそのお相手にはなれないだろう。
今は唯の境遇の事とか、航さんだけが唯の中での特別であるという事を知って優しくしてくれているだけなんだ。それに今は犯人に狙われている身でもあるから。
これが終わったらもうこんな風に朝から航さんといられるなんて事はなくなるんだから…。
今だけ…。
そっと唯は顔を航さんの方に向け、朝日の中の航さんを窺うように見ていた。
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