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追憶の彼方には戻らない 47

 学校まで登校するのは小木さんの運転で車での登校だ。
 もう衣替えになっているので唯と光流の制服は上はシャツにネクタイだけ、唯の隣には航さんが乗って助手席に光流だ。

 「で?唯はどうなるの?どうするの?警察だめじゃん!役立たないねぇ…」
 「…まったくだ」
 光流が前方を見ながら言葉を吐き出し、航さんが頷いている。
 「警察が、というか犯人が頭良すぎ…」
 小木さんが小さく抗議するように言うけれど光流に鼻で笑われた。

 「唯が犯人まで特定したのに。それでも証拠なしって唯いなかったら犯人も分からなかったって事でしょ」
 はぁと盛大に光流が溜息を吐き出せば小木さんがそうですね、と苦笑している。
 「接触…すればいいんだよね…?」
 航さんの方を見てそっと尋ねると航さんは顔を顰めて小さく頷いた。

 「すまない…。そんな事させたくないのだが…」
 「ううんっ!全然!…僕、本当に役立てるの嬉しいから」
 ずっと疎んじていたこれが役に立つなんてそれだけで今までの嫌な思いも払拭さそうな感じに思えてしまう。
 「…唯の事は絶対に守る」

 航さんが唯の耳元に顔を近づけ小さく囁くように言ってくれて、唯は少し頬を紅潮させながらこくりと頷いた。
 勿論航さんは仕事柄そう言うはずというのは分かっている。別に唯だけのためじゃなくて今は犯人に狙われている身だから航さんはこう言ってくれているんだ。
 「犯人に警察張ってるんでしょ?気づかれてないの?」
 「そのはずだ」
 光流の質問に航さんが答えた。

 「ほんとかなぁ…」
 「わからん。今暴力団関係の方からも関係を洗っている。医者までの裏は取れているのだがその先がまだだ。さっさと裏が取れれば問題ないはずだ」
 色々進んではいるみたいだ。
 何かはっきりした証拠ってないのかな…?
 ふと唯は膝の上に置いていた自分の手を見た。

 「あの…爪…って言ってたでしょ…?はがして…それって見つかってないんだよね…?」
 「そう、見つかってない。犯人が持っているんだろうと思う。頭のいいやつだからな。自分を過信して警察を馬鹿にしているからそんな証拠を持っていても見つからないという自信があるんだと思う」
 「……それ、…どこにあるか…分かればいいよね…?」

 「……それにこしたことはないな。犯人以外それを持っているはずはないから…。でも唯はそんな事気にしなくていい。下手に突いて不信感を持たれたら厄介な事になりかねないから。いいね」
 「……はい」
 航さんに諭されて一応唯は頷いたけれどどうにか犯人にそれを考えさせる事はできないだろうかと考える。

 そうはいっても今日の帰りに犯人が唯の乗る電車に乗ってくるかどうかという事は分からないのだが。
 考えてない事も聞こえるかもしくは映像にでも見えればいいのに、唯は自分が触れているその時に相手が思った事しか聞こえないのだ。

 あんなにいらないと思っていた能力が今度は物足りないなんて思ってしまう。
 予知とか出来ればいいのにとまで思えてくるのだから…。
 「唯」
 考え込んでいた唯の顔を航さんが覗きこみながら唯の肩に触れた。

 「危険な事はしない。いいね?」
 「……」
 唯はこくんと小さく頷いた。
 危険な事をしないと言われても、普通の人は考えている事を読まれるなんて思いもしないから犯人に知られる心配はない。

 少しでも役に立ちたい…。それが自分の存在する意義のようにも思えて来るんだ。
 だって今までの事を考えたら航さんも光流も唯の事を知っても傍にいてくれ、そして唯の事を守る為にわざわざ光流の家に居候させてもらって迷惑をかけているんだから。光流も光流のお母さんも迷惑だなんて言わないけれど、光流のお父さんも帰って来ないことを思えば早く事件が解決すればいいんだ。

 でも…と唯はちょっと視線を航さんに向けた。
 「どうかしたか?」
 すぐに唯の視線に気づいた航さんが唯を見たけれど唯は首を横に振った。
 事件が解決したら航さんの傍にいられなくなる…。
 そんな事を思ってしまった自分に小さく首を横に振った。そんな事思っちゃダメだ。

 きっと事件が解決したらこんな近くに航さんがいる事はなくなってしまうだろう。
 今だけ…。 
 唯はそっと手を伸ばして航さんの袖に触れた。自分から触れたいと思うも触って安心できるのも唯には航さんだけなのに…。

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