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追憶の彼方には戻らない 48

 学校に行けば光流とはクラスも違うのでいつも通りだ。
 よく話すのは前の席の加藤くらいだけど、元々それほど話すほどでもないので唯は教室では黙っている事が多い。
 休み時間でも一人で外を見たりしている事がほとんどで今までとなんら変わりのない日常に航さんの事も犯人の事も夢で見ている話なのではないかとか思ってしまいそうだ。

 今はそんな事よりも電車にもし犯人が乗ってきた時にどうにかして何かを掴まないと、という事を考えていた。
 外を見ながら…。いつもは校庭に視線を向けているのだが、今はその先、航さんと小木さんが近くにいるはずなんだけど唯の目から姿を確認する事は出来ない。

 わざわざ自分の為に二人がいてくれる事が心強いけれど申し訳ないと思ってしまう。唯が言った事を信じてくれて行動しているんだ。
 時間を取らせてしまっているんだから唯は少しでも逮捕出来るように協力しなくては…。
 どうしたらいいだろう…授業中も唯はそんな事を考えながらノートを取っていた。

 授業の内容が頭に入ってこないけれど、今はそれよりも早く逮捕する事が先だと思う。逮捕さえされれば唯だって落ち着けるだろうし、航さんたちが唯のためだけにこうして学校の間に時間を取られる事はなくなるだろうから。
 本当は航さんと近くにいられなくなるのは寂しいんだけど…、そんな事言っちゃいけない。

 …好きなんだ。
 どうして自分は女の子じゃないのに航さんが好きって思うんだろう?
 きっかけは聞こえなかったから、だろうけど…。だからといって聞こえない人みんな好きになるだろうか?と思えばやっぱりそれはちょっと違う気がする。

 航さんだから好きなんだ、とは思うけれどいくら航さんを思ったって不毛だとは思う。唯だって女の子じゃないのだから…。年の差もありすぎだし、どうひっくり返っても航さんが唯の事を好きにはならないだろう。
 はぁ、と唯は小さく溜息を吐き出した。

 それでもやっぱり航さんが好きだ、とは思う。光流も小木さんも光流のお父さんも唯の事を知っても普通にしてくれるし、やっぱり特別に好きだとは思うけれど航さんに向かう気持ちと好きの種類が全然違う気がする。
 唯ははっとした。
 犯人をどうしたら、を考えていたはずなのにいつの間にか航さんの事ばっかり考えていた。

 一人でかぁっとして顔を俯け焦った。
 別に唯の頭の中の思いが誰に聞こえるわけではないんだけどなんとなく恥ずかしい。
 ふと警察内に特殊な能力を持つ人の部署、と光流のお父さんが言っていた事を思い出した。

 もしかして唯と同じような力を持つ人がいるのだろうか…?
 同じじゃなくてもなにか別の力を持っている人が…?
 ……でも今はそんな事より犯人の事だ。
 唯は顔をあげ真っ直ぐ前を向いた。


 打ち合わせどおりに学校からは光流と一緒に駅まで歩く。
 小木さんと航さんも後ろにいるはず。姿を確かめられないのが少しばかり不安だけど…。
 「ねぇ…光流…部活出なくていいの…?」
 「ん?総体がもう今週だからよくないけど。今は仕方ないなぁ…まぁ元々部活入る気はなかったのを頼み込まれて入ったんだから俺はやめても別にいいんだけどね」

 光流が軽く答えるけど、これも唯の所為かとしゅんとしてしまう。
 「あの別に僕一人でも…」
 「だめー。気になって心配で練習どこじゃなくなるでしょ。でも練習もしないといけないのはいけないけど…。ああ!叔父貴いるんだから帰ったら叔父貴に相手してもらえばいいか」
 「……航さんも…?」

 「ん?ああ、勿論剣道してたよ。空手も柔道も段もってるし。あ、俺もね。でもまぁ多分今はしてないだろうから腕は落ちてるだろうけど…。ああ、いいな!叔父貴を負かせられるかも!唯ごめんね~!叔父貴倒しちゃうよ?」
 「………」
 光流の言葉にちょっと複雑な気持ちになってしまう。
 航さんが負けるとこは見たくないような…。でもそれを光流に謝られるのも変な事だ。

 「うん…いいかも。叔父貴も年取って来たしな!」
 光流がうくくと嬉しそうにしながら笑っている。
 「……航さん…強いの?」
 「ん?ああ。叔父貴も高校の時に剣道でインターハイ出てるよ?」
 「…へぇ…」

 「祖父さんも警察だったからね。剣道柔道空手と親父も叔父貴もやらせられてたみたい。親父はさほど強くなかったらしいけど」
 「ふぅん…光流も全部してるの…?」
 「そ。でも剣道が一番段位上だからね。剣道が一番俺は面白いかな」

 習い事とかも鬼門だった唯は感心するしかない。しかもどれも段を持っているらしいしすごいなとそれをなんとも思っていないような光流をじっと見てしまった。
 
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