「光流、電車ではちょっと離れててね?」
「……唯…ホントに大丈夫?まぁ乗ってくるかどうかってのだって分からないけど…」
光流が言葉の途中で携帯を取り出した。
「メール、叔父貴だ。……あいつ駅で唯の事待ってるらしい…。電車見送りながらホームにいるってさ」
光流と顔を合わせて唯は頷いた。
「…分かった」
「気をつけて、無理しない、だって」
「………でもどうせ僕のあの事は知らないだろうから…」
普通の人はまさか思った事を聞かれているなんて思いもしないだろうし。
「そうだけどさ…」
光流が難しい表情を浮べたけど、電車がホームに入ってきてそのまま光流と乗り込んだ。そして光流は唯の顔を見て心配そうにしているのを唯は大丈夫だからと頷くと唯から人を挟んで斜め後ろに少し離れた。
犯人が乗ってくるのは二つ先。それから乗り換えの駅までほんの少しの時間しか接触する時間がないのだ。
そして後ろから航さんと小木さんも乗ってきた。視線を向けて姿を確認したかったけど見ちゃダメと言われているので我慢しておく。けど、これから犯人と対峙するのに近くに航さんがいると思えば安心できた。
唯の立ったすぐ後ろに航さんが立ってくれたらしい。
「…無理しない。いいね」
航さんの低い唯にしか聞こえないくらいの小さい声が唯の耳に聞こえてきて、どきりとしながらも小さく頷いた。
航さんがすぐ後ろに立ってくれたおかげで他に唯が接触する人はほとんどいなくなり、別の人の声が聞こえなくなって犯人の声だけを聞けそうだ。
唯は息を潜め、ドキドキしながら電車に揺られて犯人が乗ってくるのを待った。
それでも一人で犯人に向かおうと思っていた時よりもずっと心強い。
唯の後ろに航さんがいてくれるのがわかるから…。電車に揺れる度に航さんが触れるけれど航さんからは何も聞こえてこないんだ。それに安心する。
航さんの為にもどうにかして爪の方に意識を向けたい…。
唯は座席の手すりに掴まっている自分の手を見た。
犯人から唯の顔が見えるように入り口のすぐではなく座席近くのそれでも入り口辺りに立つ。人が混んでいるわけではないので唯の顔は見えるはずだ。
何度も同じ車両に乗ってきていたし、ホームにいるということは確実に唯の顔を見て乗っているか確認してから乗り込むのだろう。
緊張してきて心臓がどくどくと鳴っている。航さんにどきどきする時とは全然違うどきどきだ。
手にも汗がじっとりと握っている。
手すりを掴んでいた手を離し、両手をこすった。そしてもう一度手すりを掴んで落ち着かせる為に息を吐き出す。
電車はすぐに二つ目の駅に着いてしまう。
目をこらしながらホームを見た。
………いた!
ホームに何度ももう見ている姿を見つけた。
ここからは唯にしか内容が分からないのだから気を張らないと。
ちらと乗り込んでくる犯人に視線を向けたら犯人は後ろや周囲をちらちらと落ち着きなく見ながら電車に乗り込んできた。唯の顔も確認したから乗ってきたのだろうけど、視線は警戒しているように周りを鋭い目で見ている。
「…やぁ」
そうしてから唯の隣に立って唯の顔を見ながらにこりと笑って声をかけてきて唯は小さく頭を下げた。
どうやって触ろうか、と唯が悩むまでもなく唯の隣に陣取って来たのでほっとする。それに人も多く乗ってきたので混んできて自然に触れることが出来た。
唯はほっとしてさらにちょっと体を犯人の方に寄せる。
「…混んでますね」
「そうだね」
唯の方から小さく男に声をかけた。見た目は優しそうな人に見えるのに…。
〝警察か…!?ここにもまさかいるんじゃないだろうな…〟
唯は体をびくりと反応しそうになったのを無理に我慢した。顔も危うく犯人に向ける所だったのを押し止めた。
〝なんでだ…?いや、まだ確定はしていないのだろう。こそこそ動き回っているだけか…?勘違いか…?〟
男が緊張しているのが感じ取れた。
…気づいたらしいのを航さんに伝えたいけど今は無理だ。
〝どうする…?今は動かない方がいいか…?〟
どうやら犯人が消極的なほうに向かっているらしい。今回を逃したら今はよくてもほとぼりが冷めたらまた繰り返すんじゃないだろうか?
どうしたらいい…?
唯は緊張から冷や汗がつっと背中を伝った。
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