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追憶の彼方には戻らない 51

 「手、航さん…」
 小さく唯が声を絞り出した。
 「うん?どうかした…?」

 〝さっさとこの子を離して去ろう〟

 がばっと唯は犯人の服を両手で掴んだ。
 「航さんっ!航さんっ!!」
 「君!離しなさいっ」
 突然大きな声を出した唯にぎょっとした犯人の心情が伝わって来た。

 「航さんっ!」
 犯人を掴んで声を出す唯に周囲にいた人達も驚いて足を止めて見ているのを感じたがそれどころじゃない。
 「唯!」
 少し離れた所からの航さんの声!

 早く来て!
 航さんはそんなに離れた所にいたわけじゃないだろうけど、時間が途轍もなく長く感じてしまう。
 「航さんっ」
 唯はただ航さんを呼ぶ事しか出来ない。

 「君!離しなさいっ!」
 唯の尋常じゃない気配を感じたのか犯人が唯を振り解こうとしているが唯も必死に犯人に縋った。手を離しちゃいけない!離したら逃げてしまう!

 「あっ!」
 パンっという音と頬がカッと熱く感じたのは同時だった。そして唯の手が犯人から離れてしまった。
 「唯っ!」
 「いいから!捕まえてっ!」
 体が倒れて投げ出されたけれど唯は声を大きく振り絞った。

 犯人が走って逃げようとしたがすぐに何人か追いかけていったのが見え犯人を取り押さえているのが見えた。
 「唯!」
 航さんが唯のすぐ傍に来た。
 「航さん!タバコの箱!早くっ!」
 航さんの胸の辺りを掴んで訴えると航さんは僅かに目を見開いてそして頷いた。

 「小木!光流!」
 唯の体を起こし、後ろにいたらしい小木さんと光流に視線を向け航さんは黒い人山となっている中に入っていった。
 犯人の喚いている声が聞こえてくる。

 「唯…大丈夫…?」
 「唯くん」
 小木さんと光流が唯の両脇に立って唯に触れてこようとしたけれど唯は大丈夫と首を横に振った。
 「いい!触らないで…」
 「唯!」

 唯は顔を俯けて首を横にぶんぶんと振った。
 二人が心配してくれているのは分かる。分かるけど思いが全部聞こえてしまう二人には触れて欲しくなかった。
 「大丈夫だから…」
 叩かれたらしい頬が腫れているのは分かったが今はそれどころじゃない。

 そして犯人を取り押さえたのだろう人達は警察なのだろう。じっと唯はそのなりゆきを目で追った。
 タバコの箱って言ってたけど…本当にそこにあるのだろうか…?
 ドキドキと心臓が高鳴りながらじっと視線をこらして見ていると、少ししてあった、逮捕、という言葉の断片が聞こえてきたのはすぐだった。

 唯は安心してほうっと息を吐き出し体の力が抜けそうになった。
 「唯っ」
 光流が心配そうな声を出して手を出そうとしたけれど大丈夫と唯は首を横に振った。

 犯人が逮捕されたのはいい事だ。唯が聞こえたから、そうなったんだけど…どうしても複雑な思いが湧いてきてしまう。
 駅には利用する人達も皆何事があったのかと足を止めて人の壁が出来上がっていた。
 その中から航さんがまた姿を現して唯の元に走ってきた。

 「唯」
 航さんが唯の前に立つと唯の顔を覗きこんでそっと頬に触れた。今まで頬を叩かれた事は分かっていたけれど痛みも何も感じていなかったのに航さんに触れられた途端にじんじんと熱を発したきた。
 「…酷いな」
 「大丈夫。…こんなのは大丈夫だけど…あの…爪、あった…?」

 「あった」
 航さんが唯の顔を見て力強く頷いた。
 「…よかった…」
 ほうっと唯が大きく息を吐き出すと航さんが唯の肩を抱き寄せるようにした。

 「小木、先に唯を光流の家に送ってからだ。いや、病院行った方いいか…?」
 「はい」
 「病院はいいよ!平気」
 犯人はそのまま別の人に任せてしまうのか、航さんは唯の肩を抱いたままその場を離れようとする。

 「それに…あの!別に光流の家じゃなくても…」
 もう犯人は捕まったし…。
 「ダメだ。…そんな顔で家に帰せない」
 そんなに腫れてひどい顔になっているのだろうか?

 「病院はいいよ?」
 「…じゃあ途中薬局で湿布」
 航さんが小木さんに言って小木さんも頷いていた。

 今日も駅まで車を運んできてもらっていたのかそのまま駅から出ると前と同じ場所に停まっていた車に乗り込んだ。
 やっぱり航さんは唯の隣に座ってくれる。
 それに安心はしたけれど、今になって体が震えてきた。かなり緊張もしていたし、どうなるかともうずっと電車の中では気を張り通しだったのだ。

 「唯…もう大丈夫だ」
 唯が小さくカタカタと震えていたのを航さんがすぐに気づいて後部座席に乗り込んだ途端にぐっと航さんに抱きかかえられるようにされた。
 ずっと肩は抱きかかえられるようにされていたけれど、さらに航さんの胸にぎゅっと抱え込まれればその温かさにほっとした。
 
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