「ただいま。……宗?」
部屋の電気がついているけど宗がいない。
慌てて部屋中を探した。
どこ…?
でもやっぱりいない。
不安で押しつぶされそうになってくる。
どうしよう…?どこいったの…?
真っ青になって手が震えた。
出ていった…?
その時がちゃっと玄関のドアが開いた。
「瑞希おかえり。わるい、今ちょっと下行って……瑞希?どうした?」
瑞希は宗に駆け寄って首に抱きついた。
怖い…。
宗がいなくなってしまうんじゃないかと思って怖くて仕方ない。
「…瑞希?なんかあったのか?」
「違う。…宗が…いなかったから…」
「ああ、ごめん。ちょっと急用があって下にいただけだ」
「…問題?」
「いや。大丈夫」
宗の手が瑞希の背を撫でた。
それに安心して瑞希は落ち着いてきた。
「………」
宗がいないだけでこんなに不安になるなんて。
怖い。
どうしてこんなに恐怖なんだろう。
依存しないようにと思っているのに、その心と裏腹に瑞希の全部は宗によって確立していると思う。
宗がいなくなったらきっともう起き上がる事すら出来なくなってしまう。
「瑞希?」
背の高い宗が瑞希の顔を覗きこんだ。
「……ごめん」
大丈夫、と瑞希は宗から離れる。
「着替えてご飯用意する」
宗は黙って瑞希を見ていたのに瑞希はそそくさと部屋へ向かった。
まだ身体が震えそうだ。
鳥の子のように瑞希にとって初めての大事な存在に、すりこみのように宗の存在を求めてしまっているのだ。
宗が瑞希を買うといって渡されたお金は瑞希のクローゼットの中に押し込められている。
これを使ったら宗の物になれるだろうか?
思わずそんな事を考えてしまって瑞希は頭を振った。
宗は瑞希を縛り付けたいと言うけれどそんな事しない。
監禁だって軟禁だっていい。
宗が縛り付けてくれるならその方が安心出来る気がする。
自分は壊れている。
こんな自分が宗の傍にいていいのだろうか?
宗をだめにしてしまわないだろうか?
宗は選ばれた人間だ。
それなのにその横に立っていい?
自分みたいなのが…?
…でも離れられない。
「…ごめん」
瑞希は呟いた。
男になど興味ないといったのに。
きっと瑞希がいなければ普通に女の子と付き合って、結婚して…。
でも瑞希ではそうはできない。
自分はいい。
でも宗は表を歩くような人だ。
分かっているのに。
自分から宗の手を離す事なんて絶対にしないだろう。
瑞希は着替えを終えると深呼吸して部屋を出た。
宗が難しい顔をしてダイニングの椅子に座り、キッチンで動く瑞希を見ていた。
「…そんなに見てたら緊張するんだけど」
「え?ああ、わり…」
宗が額を搔く。
「…働いてきて、俺の分まで飯の用意してって面倒じゃないか…?」
「え?ううん。全然。だって一人でだってしてただろうし」
「…俺がすりゃ瑞希の負担が減るのにな」
「だめっ!……俺がしたい、から」
宗の為に何か出来る事なんて瑞希には限られているのにそれまでさられたら瑞希のいる意味がなくなるから。
「だって、瑞希疲れてるだろ?」
「……疲れてるっていうか、胃がちょっと痛いかも。人の付き合いが面倒で…」
「…何か問題?」
「ううん。違う、けど…」
昼間斉藤に言われた事を思い出してちょっと動揺してしまう。
「あの、金曜日に新入社員歓迎の飲み会あるらしい、んだ。俺、行きたくないけど、まさかそんなわけにいかないだろうし…。ほら、会社でなら仕事の話だけで済むけど、そういう所にいったりしたら色々余計な話が出たりする、し……」
「ああ……」
宗は小さく頷いた。
「金曜か。じゃ夜俺、車で迎えに行ってやるから」
「え?いい!よ…そんな、迷惑…」
「迷惑じゃない。なんなら店の前でずっと待っててもいいから」
「そんなの…」
瑞希は首を振った。
「じゃ適当に迎えに行くから何処でやるかだけ教えて?」
「それは勿論教えるけど…でも本当に迎えは…」
「だめ。だっていつもよりも帰り遅いんだろ?瑞希が不足しそうだから迎え行く。……瑞希が嫌だっていうならやめるけど…」
「嫌なんて、ない」
「じゃいいだろ」
宗は瑞希が断れないように言ってくれる。
「……うん」
瑞希だってそんな飲み会なんかより宗といたいほうが本当なのだから…。
瑞希は小さく頷いた。
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